第12話 今が一番幸せかも…!(聖女目線)


「はぁー…」


今日で2週間、毎日勇者の訓練に付き合わされてる。

私は言われたらヒールをかけるだけ。


ただ一日中、勇者が剣術を指南されているのを眺めるの。寝る前には解放されるけど。

ぶっちゃけ、王命じゃなければこんなの理由つけてやらない方法を探すわ。



「……っ!この紅茶美味しいわ…!」


「気に入ってくださったなら幸いです。」


「…貴方が選んでくれたの?」


「連日、訓練でお疲れのようなので。」


私に護衛として付いてくれているフォースは、いつも色々と気づいてくれる。

紅茶が無くなる前に入れてくれるし、お菓子も追加してくれる。長い時間ここにいると腰が痛くなるだろうと、質の良いクッションを用意してくれていた。



最高の護衛だ。メアリーにとって彼は初めての護衛だし、やってることが従者まがいのことだとは気づかない。


それが周りにどう見られているかも。


「…ほら、またやってるわよ…」


「本当だ…あの噂は本当だったのね…。騎士様をアゴで使ってるってやつ…」


「他の噂も本当なのかもね…ほら!夜も……」



王宮には侍女が多く居るが、訓練場付近にいるのは位の低い下女が多いので噂も立ちやすい。



だが、メアリーは気にしてなかった。


「…またメアリー様に嫉妬している下女がいますね。後で侍女長に伝えておきます。」



そう、フォースが対応してくれているから。

みんなこの見目麗しい男を近くに置ける自分が、うらやましいのだ。


「…私、フォースが居てくれてよかったわ。田舎に居た時は、こんな風に私をエスコートしてくれる人、いなかったもん。」 


「…それはそれは、その村の男達は男の風上にも置けませんね。」


「そうなの。男として、魅力的な人がいなかったのよねー。まぁ、だから王都にも悔い無く来られたんだけど。」



「聖女様、ヒールをお願いします!!」



「あら、呼ばれたわ。行ってくる!」



「はい。」


フォースは無駄のない動きでメアリーを立ち上がらせ、手を離す。


視線の先には倒れた勇者と、指南役のジョシュア様だ。


なんだか、本当に魔王討伐の必要なんてあるのかな?ってくらい、今一番幸せかもなんだけど。



服も化粧も宝石も、望むままに貰える。

《聖女》ってだけなのに、皆から羨ましがられて敬われて…。



あの時、選定の儀にきた聖職者のおじ様から、色々と話を聞かなければ王都になんて来なかったかもしれないから、おじ様には感謝しないとね。



あの後、正式な手続きを経て、聖職者のおじ様と養子縁組をしているので、今はおじ様と呼んでいる仲だ。



でもおじ様がユーリのこと初めて見た後、睨んでる時は怖かったなぁ…。

聞いてもはぐらかされたし、私に関係なければどうでも良いんだけどさ。



「アイツにだけは気を許してはいけませんよ。」



って笑顔なのに怖かったし、私はもうユーリとは関わりたくないわ。



「ヒール……。次はあと2時間後くらいになる?」


「そうですな。それまでお休みください。」



ジョシュア様にもOKもらえたし、部屋…はつまらないから、フォースと庭園の散策をしようかな?



「フォース、お散歩行きましょう!」



「はい、聖女様」


フォースにエスコートしてもらいながら、訓練場を後にする。

可愛いスカートを翻して、胸の宝石も煌めかせて。


足取りが軽く感じるのか気のせいかしら…?

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