第10話 気の毒すぎませんか?



「……頑張ってるよ!勇者くんっ!!」


思わず声に出してしまった。

ここはユーリの自室である。


精霊の目で時間を遡って、勇者を見たのだが、本当にヒールかけ続けて訓練してて、ボロボロになってもまだヒールかけられて。



聖女は何も感じないのか、欠伸をしながら訓練に参加していた。


「メアリー、新しい恋人でも出来たのか楽しそうだなぁ…。あの上から見下ろす感じ…。本当、性格悪い。」


それと付き合ってたなんて、自分の人を見る目が信じられない。



ロウソクの火が揺れ、夜の鳥が鳴く。


精霊の目を切り替え、他の奴らを見てみるとなかなか面白いことをしている。


たとえば《魔導師》は認識阻害魔法を転化して、何やら呪術を行っているが、呪う相手が貴族だったりするので、依頼なのか私怨なのかは謎だが、色々としているようだった。


精霊には認識阻害が効いてないので、俺には全て見えてしまう。




他に指南役のジョシュアも覗いてみたが、なんか、声かけられたんだよね…。

「誰かいるのか…?」って。

多分、精霊の何かしらを気配とかで感じてるんだろうね…。 

この人はこの城で一番強いかも?

魔力だけじゃなくて、総合的に。


怖いから窓枠ギリギリから覗いてみたけど、目も合った気がするから、今日は退散。後日距離をあけて伺うしかない。




とりあえず、今日の収穫は大きい。


なんせ……魔王と番になったのだから。

あまり耐性のないことをして、もう記憶を抹消したいくらい恥ずかしかったが、やっちまった。


今更恥ずかしがって、ベッドに伏せてみたがそれでも身悶えしてしまう。




「気に入ってくれたなら良いけど…なーんて………」



我ながら感心してしまう行動力だ。

敵の敵は味方だっただけなのだから、魔王側に付くのは当然。



でも番を即決するのは、一瞬躊躇ってしまった…。


番になると、お互いの魂を縛るので一種の呪縛でもあるし、それがいつ消えるかは不明。来世までは繋がりがあるとの言い伝えだが、これは賢者の知識からして本当。


お互いの居場所もわかるし、極めていけば思考だけで会話も可能。


寿命はそれぞれの寿命が尽きるまでだが、たまに魂の相性がよければ寿命が延びることもある。



そして、この番制度があるのは魔族のみ。

稀に異種交尾で成功するとのことだから、魔王様本当素晴らしい。


もちろん、魔族の番になった人間は村八分にされるし、もしかしたら軍に売られるから、絶対他には知られてはいけない。だから魔王は俺に指輪を付けたのだ。



「これからは農作業中とか、指輪が外れないように気をつけよう…」


今後はしばらく、実家で生活し、主に王都の情報収集を行う予定だ。周りに不信感を与えないように。

まぁ王都から距離があるから大丈夫かとは思うが、一応聖女の元カレとして軽くは調べられてるはずだから、念には念を入れて行動する。



「あの聖職者の野郎も、なんか企んでそうだしな…」



数回しか会わなかったのに、何故か敵意を向けられたし、俺を聖女から遠ざけようとしてる感じもある。


あいつは要注意かな…。

精霊は付けてるから今後の行動を追尾していくことにする。



「明日から農作業も再開だしなー。今日はもう寝るか。」




しばらくはこの生活だ。無理せず休もう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る