第7話 一緒にやっちゃいましょう!
「正気ですよ。…魔王様、威圧を解いて下さりありがとうございます。」
驚きすぎてか、呆気にとられたのかしらないが、威圧感が無くなり、呼吸が楽になった。
魔王はまだ眼を見開き、口も半分塞がらない感じで固まっている。
だが、俺が話しかけたことで、再び動き出す。
「……とりあえず、話をきいてやる。」
「ありがとうございます。本音で、嘘偽りなくお話させていただきます。」
すっと呼吸を深く吸い、浅く吐く。
唇が乾きそうだが、今は我慢。
「私この度の生で色々とありまして、この国と《聖女》が嫌いになりました!」
「……ほぅ…」
「どうせなら、嫌がらせして苦しめてやりたいと思うほどの憎しみが、我が身に蔓延っております。」
「…………それで…?」
「そのため、私は考えました!奴は必ず魔王様を討伐するなどという国の考え通り、動くであろうと!そしてそいつは確実に、あなた様の嫌いな聖属性の攻撃を仕掛けてきます。これは厄介でしょう。物理的にどんなに弱くても、聖属性の魔法攻撃は、魔族にとって致命的です。弱点だ。」
「…………そうだな。あれは私も嫌いだ。」
「ですよね!!そこで、私を受け入れてくださると、私はその弱点を対策することが出来、魔族全体の安定した戦闘をお約束できます!!」
「対策することが出来るのか?」
「はい、私は《賢者》ですので、過去の戦闘データもあります。が、私は所詮人間。弱点克服の糸口は既に見えているのですが、魔族の方に訓練を行って貰い、持続時間なども考慮した上での作戦をたてさせていただきたいと考えています。」
「…、それは思ってもみない誘いだな。」
「でしょう!!ですから私、《賢者》はこちら側に付きます。計画から何からお任せ下さい。」
「……む…」
「もちろん、他にも諜報活動も使い魔で行えますから、奴らの動向はばっちりと確認しております!これは魔力探知できないよう、特殊な方法ですので、バレる心配はありません。」
魔王としっかり眼を合わせ、意思を告げる。
「是非、私を仲間に入れて下さい!!!」
お願いします!!
今度は頭を下げる。
「…………一ついいか?」
「……!…は、はい!」
「先ほど、『こちら側に付く』と言ったが、それでは来世は、どうするつもりだ?」
……気づかれたか……
ここで味方にしてくれてたら楽だったのに。
そう、俺がこちらに付けば、色々と魔族の情報も手に入る。
魔王は全て見通す力を持っており、だからこそ戦闘となると人間が先の先の手を考えたところで負けるのだ。そこで賢者が過去の戦闘を参考にして、今世のやり方を決めたりと、役に立つのだが。
このことは過去の魔王と相対したときに、既に知られてしまっていた。
魔族を殲滅した時もあることから、魔王は何かしらの記憶を繋ぐ方法を知っていると考えられる。
「……来世は状況がどうなるか、私も予知は出来ませんから、その時の自分が決めると思われます。」
「それは、魔族の胸の内を人間に明かしてしまうという大変危険な状況になる。それを来世にも伝えるつもりで、今世はこちらに付くわけではあるまいな?」
「それは、も、もちろん違います!!本気でこちらにきたいのです!!」
「そうか…。」
「…………」
「…………」
「………、条件がある。それが飲めたらこちら側に来ることを許そう。」
「何でしょうか?」
「俺の番になれ。」
「…………………………正気ですか。」
「貴様に言われたくない。」
確かにイケメンですがね、大人の男って感じですし。髪を横に流して揺るく留めるスタイルも良いですが。
男ですし。
「私も男です。」
「魔族に性別など合ってないようなものだからな。気にするやつはおらぬ。」
「俺は魔王様の好みだと……?」
魔王は手を組み、脚を組む。少しだけ視線を俺の上から下まで移動させ、ふっと笑う。
「まぁ、顔と度胸は合格だ。……番は魂の絆、次の生を受けるときも繋がりが出来るからな。来世でも貴様を確実に見つけ出して監視できる。それが目的だ。」
「そ……それが狙い……。なるほど…」
「それが出来ないなら、今回の話は無かったことに。だが次会うときは敵だ。殺す。」
「………!」
どうするか、来世はどうなるか自分でも予想できない。
だが、魔王は条件をのめば仲間に入れると言っているのだ。大丈夫だ。
俺は拳をキツく握り、ぐっと上を向き直ると魔王の視線と絡み合う。
「わかりました。…番の件承ります。」
「……いいだろう。では改めて、よろしくな。《賢者》殿」
「はい…魔王様。」
追って連絡すると言われて、退室すると全身から汗が止まらない。手は少しだけ震えていた。
「こちらでお待ち下さい。」
どこかの一室に入れられ、ソファに座るように促される。
温かい紅茶とお菓子を用意され、急に空腹を思い出すも、ここは敵陣。まだそこまで警戒は解けない。
従者は扉から出ていったため、一人になる。
食欲に負ける前に視線を外し、一人になれたことでほっと一息つき、ソファにもたれるように背を預ける。
数分間そのままでいると、程よい眠気がくる。
ダメだ!まだここは敵陣なんだから、と気合いで起きようとするも、体が鉛のように重い。
なんだかぼーっとしてしまう。
「………!まさか暖炉に、何か細工が…?!」
自前のハンカチで鼻と口を覆うも、既に吸ってしまったようだ。
パチパチと燃える暖炉は一見普通に見えるが、良く見てみると、黒い精霊が火の周りを舞っている。
これは黒魔法に関与する精霊だ。
人間も呪詛などに使うが、主に魔族を好む精霊のため、間近に居る者ではない。
これは普通には消せないし、打ち消しの魔法や呪詛が必要なのだ。
だが、俺は既に四肢の力が入りにくくなっており、ソファの上でハンカチが外れないように、体を丸くすることしか出来ない。
窓はあるがかなり距離がある。
まじか…どうすれば……!
「………まだ動けるのか?」
ソファの後ろから声がかかる。
「まお…うっ……!」
急に肩口を背もたれに寄せられ、反対の手でハンカチごと手を取られる。
首筋に指を添えて、顎に手をかけられ、上を向かされる。
いつの間に入ってきやがった!
「大丈夫だ。これは吸っても害は無い。……少しだけ体が動かなくなるだけで、意識は失うことはない。」
「な…」
「まぁ意識はあっても正気で居られるかは、わからんがな?」
「……!」
まさか、このまま殺されるのか。
喉抑えられたら、死ぬ。
俺はまだやり返せてない、死にたくない。
「さぁ、『番の儀式』をしようじゃないか《賢者》…いや、ユーリ……」
「…まさ、か…、今から?!」
体が震える。声が弱々しくて、自分でも嫌になる。
「当たり前だ。…お前の魂は俺に囚われ、俺の魂はお前に囚われる。いつまで続くか、見物だなぁ?」
心の準備まだ何ですがーー…。
笑う魔王の顔が近づいて、唇が重なった。
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