第6話 さてそろそろ行こうか
「ただいまー」
「お帰り!ちょうど良かった。窯焚き手伝ってくれる?」
「えーそれ俺にとっては良くないじゃん」
「はいはい、さ、頼んだわよ」
扉を開けると母が夕飯の支度をしようといていた。
窯焚きは確かに大変だから手伝うのはいいのだが、起きたばかりの息子にも容赦がないと思うのは俺だけだろうか。
「……元気そうにしてた?」
誰と言わずともメアリーの両親のことだとわかった。
「…やつれてたけどね。色々話せたしよかったよ。」
「そう……」
野菜を切る手を止めずに話す、その表情からは何とも言えない感情が母にもあるのだと知る。
家族ぐるみの付き合いだったし、息子が倒れた元凶の親だし。
でも、心配なのだ。
長年の付き合いで情と言われたらそうかと納得するほどの。
「……おじさんも回復してるみたいだよ。」
「……いい傾向ね」
「…俺さ、しばらく結婚とかは無理そうだけど、辛い時支えあえる人と夫婦になりたいなって思ったよ」
「……それはとっても幸せなことね。」
少し泣いているようななんでもないかのように、料理を作る手を止めない母は少し微笑んでいるように見えた。
ああ、俺、この家族でよかったな。
父が帰り、夕飯を済ませると、自室に籠る。
さて、そろそろ動かないと間に合わなくなる。
「まず、情報の入手かな」
俺は予め仕込んでいた。メアリーがここを立つ前に、その周囲に群がっていた精霊たちと俺を繋げておいたのだ。
《賢者》は魔法陣とかいらないからこういう裏工作に向いている。
王都にも多分、魔法陣とかを弾く対策はしてあると思う。魔術士いっぱい集めてるくらいだし。
でも精霊は避けられない。
精霊は神の使いとも言われ、存在はしていると信じられているが見えるのは赤子くらいだと信じられている。
例外はいるのだが。
《賢者》はその例外の1つ。
「1年後って言ってたけどさ、予定を早めることもあるし。念には念をってね。」
精霊と意思を繋ぐと直ぐ、映像として見えてくる。
会議をしているのか、20人くらいのオヤジ共が怒鳴りあっている。
メアリーもいるし、その隣には同年代か少し上くらいの少年と、如何にも魔女という風貌のオネエサマ。
これが《勇者》と《魔導士》かな?
真正面に、50歳代くらいの偉そうなおっさん。
国王だな。
「だから、1年で勇者の剣術を完璧になんて無理です。2年は必要でしょう。彼は才能は約束されてはいる《勇者》ですがまだまだ足りません。ここ半年の稽古の進みでわかります!!」
「だが、我が騎士団も休みなく遠征を余儀なくされ、皆疲弊しております。騎士団とていつまでも待てませぬ。」
「……魔王が進軍して、瘴気を撒いていると言われています。このままでは《聖女》様に浄化していただくことが出来なくなりますね。ざっと見積もって2年後には瘴気が王都まで届いてしまうでしょう。」
「…し、しかし、」
「……ではいつもの倍、剣術を教われば良いでは無いか。」
「は、こ…国王様、まだ彼は14歳で……」
「《聖女》にヒールを掛けてもらってはどうかね、疲労はとれよう。」
「……それでは精神を病みます!!」
「国民のためなら出来よう。な、《勇者》よ。」
「は、はい……」
「……っ!」
うわー、クズ王じゃん。
怒ってた人は指南役かな?聖女だけやたらいい服で宝石ギラギラしてて、勇者は明らかにサイズ合ってない一張羅着せられとる感じ。
魔導士のオネエサマはわからん。
「今聖女が見つかったのは好機だ。予定通り、あと11ヶ月したら魔王に略奪された地を奪還しに向かって貰う。そして魔王を討ち取ってみせよ。」
国王退席、臣下だけが残る。
《聖女》様も参りましょうと声をかけられ、メアリーが手を置く先はイケメン騎士様。
メアリーの目も満更でなさそうに赤らめている。
「なるほど。1年後には魔王討伐したいのか。」
勇者、大丈夫かな……。
ふと気になり、その後の勇者の姿を追うように精霊に伝える。
計画の資料を読み、精霊達にお礼として魔力を渡す。
なんで俺がこんな事してるかって?
それは明日になったらのお楽しみ。
布団に入り、目を閉じて楽しみを待とうとおもう。
翌朝
「ちょっと行ってくる!帰り遅いかもー」
「気をつけるのよ。」
朝食後、今日も仕事を免除された俺は、森の探索に出た。
森はまぁ、ここは勝手知ったる庭のようなものだけど、まぁ、嘘は言ってない。今からいく森は『魔の森』そこを抜けると魔王城なんですよね。
ここから徒歩で行くと2ヶ月はかかるそんな場所に、一瞬で行く方法がある。
「じゃあ、使い魔くん、行くよー!」
シュッっと景色が変わる所謂転移だ。森だが、今までいた森とは違い、魔力量が少ないものはとても耐えられないだろう。
カラスの使い魔を魔の森で待機させ、座標として移動する方法だ。
自身の魔力が少ないと胴体が無くなってしまうから、普通ならおすすめしない。
カラスを森に待機させて、俺は魔王城を見下ろす。
たぶん、魔王は魔力を感知している。
何も無かったということは、罠か、来いということなのか、会ってみないとわからない。
だが、俺もこの段階で弾かれたら諦めようと思っていた。
「よし、行くぞ。」
門の前まで転移。
門番からはじろりと見下ろされる。大きい牛が人間の下半身付けてる?かのようだった。
やはり気づかれていたようで、門をくぐって直ぐ、笑顔のキレイな男が出てきて、案内してくれる。
しばらくくねくね曲がったり上がったりして、重そうな黒光りの扉の前に着く。
「この先であの方がお待ちです。」
「…ありがとうございます。」
怖い。
扉の前でもわかるくらい、魔力が迸っている。
俺の魔力の倍ある気がする。
迫力が違うなー。これが威圧感ってやつだな。
気を引き締めるように背筋を伸ばして、扉に手をかける。
ギィィー…重い扉が開き、目の前には王座とそれに座る人物がいた。
黒目黒髪。俺のものより深い漆黒で容姿も切れ長で整っている。
顔色が少しだけ悪そうに見えるのは気のせいか。
逆光のためか、表情までは読み取れず、とりあえず近づいてみることにした。
めちゃくちゃ威圧されてるが、俺も魔力で体に薄い膜を作っているから、辛うじて動ける。
膝を付き、頭を垂れる。
「こんにちは、私が今回の《賢者》でございます。」
「………そのようだな。気配が同じだ。」
「さすが。歴代の《賢者》と相対しているだけありますね。」
「………何をしに来たのだ。私とお前は敵同士だろう?まさか、一人で戦う気で来たわけではあるまいな?」
「…何をバカなことを。私は交渉しに来たのでございます。」
「……ほぅ…。面を上げよ。交渉とは何のだ?」
「……はい。」
さぁ…ここからが正念場だ……!
「私を、魔王様の配下に加えて下さい。」
「………………し…正気か?」
まぁ、そうなりますよね。
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