第7話

 なんてことだ、とエヴァンジェリン=ノースフィールドはルームメイトを前にして頭を抱えた。テーブルには箱の中の半分が既に包み紙だけになったチョコレート。うち1つはエヴァが食べたもので、あとは恋葉だ。


「えばちゃん〜ぎゅうう〜」

「恋葉ちゃんが可愛すぎますわ!!」


 ふにゃんとした顔でこちらに手を伸ばす彼女の要望に応えながら母を責めた。


「お母様に渡されたものにお酒が入ってるとは思いませんでしたわね……」


 エヴァは、やけに苦味のあるチョコだなと思った程度だった。しかしその何倍も口に入れてしまった恋葉はそうはいかなかったらしい。おそらく元々のアルコールへの耐性もないのだろう。

 すりすりと寄せてくる頬は熱を持っている。機嫌が良さそうに鼻歌を歌いながらエヴァの髪を指に巻きつける恋葉を、ひとまずベッドに寝かせようと腰を浮かせた。


「恋葉ちゃん、立てますか? ベッドはすぐ後ろですから、横になりましょうね」

「んーん、もいっこ」

「だだだめですよ恋葉ちゃん!! チョコはもうおしまいです!」

「んぇ〜?」


 テーブルの上へと再び伸びた手をぺちんと叩く。途端に唇を尖らせる恋葉にドギマギしながら、いつも通りを装ってベッドにあがる。


「さあ恋葉ちゃん。こちらで一緒に寝ましょう?」


 そう言って両手を広げれば、嬉しそうに飛び込んでくる。

 動画に収めたいところだが手が空いていないのが残念だ。しかし、この状態の恋葉を眺めるだけというのは良くない。理性が簡単に崩れていきそうだから。とっくに眠気は限界を超えているはずなので、このまま甘やかしつつ布団をかけて暖めればすぐに眠るはずだ。


「恋葉ちゃんは甘えん坊さんですね〜」


 しかし突然体を離した恋葉は、むぅ、と唸りながらパジャマのボタンを弄り始める。


「えばちゃんこれ、あついけん脱ぐ」

「はい!?」


 昨夜のことを思い出すが、今は自らボタンを外しているのだ。似た状況のようで全く違う。

 止めるべきか手伝うべきか、悩んでいるうちに先に恋葉はボタンを外し終えてしまった。それと違ってズボンは簡単に脱げてしまうので、あっという間に恋葉は下着姿になった。


「ほらえばちゃんも〜」


 手を伸ばし、また唸りながら今度はエヴァのパジャマのボタンと格闘し始める。


「わたくしも脱ぐんですの?」

「そーだよ。きのーの、気持ちよかったし」


 一瞬頭が真っ白になったエヴァはハッとして頭を横に振る。


「もーうごかんでよー」


 昨日の、というのはいつものキスに少し体温が追加したというだけだ。前ボタンを外すだけだったのが完全に下着姿になっているのが昨日とは違うが。

 とにかく、いかがわしいことは何もしていない。


「んー、やっぱこれすきー」


 布団の中に入って嬉しそうに言った恋葉は、エヴァに抱きついたまま目を閉じ、すぐに寝息をたてて眠ってしまった。

 ホッと息をつきながらテーブルに目をやる。もらったチョコレートは実はもう1箱あるのだ。いつもは恥ずかしがってキスも受け入れるので精一杯といった風なのに、大胆な恋葉も可愛くてまた見たいと思う。

 しかしまた食べさせるわけにもいかないし、当然クラスメイトや友人に譲るわけにもいかない。

 先生方にあげるには数が少ないので、もったいないが捨てるしかないだろうか。


「邑さんなら、」


 用務員の倉田邑ならば、他の人に見られることなく渡すのも簡単だ。

 朝早くに起きて彼女を尋ねることを決め、自分も寝不足だったことを思い出す。


「おやすみなさい、恋葉ちゃん」


 肌に少し赤みがさしたいつもより高い恋葉の体温を感じながら、エヴァは眠りについた。

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