第6話
ウチは眠くて仕方ないのに、エヴァちゃんは朝からとってもハイテンションだ。
「さあ恋葉ちゃん、こちらに座ってくださいな♪」
ギリギリまで寝たいとごねたせいで時間に余裕はないはずなのに、渋々起きて着替えるとエヴァちゃんはウチの髪を丁寧に梳かし始めた。いつもはサッと梳かして適当にひとまとめにして終わりなのに、机の上には髪を巻くコテが温まっている。明らかに時間をかけるつもりだ。
「ねえ、もうそんなに時間ないよね?」
「大丈夫です。任せてくださいな。間に合わせますわ」
「いや、別にいつも通りにすればいいやん?」
髪で遊びたいなら昨日や一昨日いくらでも時間があったのに、なぜ忙しい朝にこんなことをするのか。眠気でかくんと頭が動きそうになるのを、「危ないからちゃんと起きてくださいませ」と注意され、意識を保つのに必死になる。しばらくされるがままでいると、エヴァちゃんと同じようにゆるくふんわりと巻かれた髪が背中を撫でる。やりきった顔のエヴァちゃんには申し訳ないけど、首に髪が常に当たっているような感じがとても落ち着かない。
「ねえエヴァちゃん、これで終わりなん? 」
「ええ。とても可愛いですわ! 完璧でしょう?」
「結んでいい?」
「ダメですわ」
結局、バレッタを付けるだけなら、とエヴァちゃんのを借りることになった。初めて付けたなぁ。さっきよりはスッキリしたけど……。
「せっかくなのでメイクもしたいところですが、流石に時間が足りませんわね」
「いいよメイクとか。今日の休み時間は寝るしすぐ崩れるよ」
……そもそもメイクとか、したことないし。
学校に着いてからは自己紹介の場面で視線をかっさらい、クラスメイトには当たり前のように頬にキスをする。お話上手なエヴァちゃんは人との距離を詰めるのも上手で、中等部からエスカレーター式に上がってきた生徒が多い中、あっという間に溶け込んでいった。絶好調だ。
ウチはというと、朝の宣言通り電池切れ。初日なのにどうかとも思うけどしょうがない。机につっぷしてたら休み時間はあっという間に終了だ。途中で起こされたような気もするけど、よく覚えてない。チャイムでちゃんと起きて先生の話は聞いてたし、不良みたいに思われてはいないはず。お友達作りはきっと明日からでも大丈夫だ。
初日ということもあり、軽いオリエンテーションが終わればお昼で解散。帰ってからゆっくり寝るつもり。それでも少しの休み時間も寝ていたいくらい、今は寝不足なのだ。エヴァちゃんも条件は同じはずなんだけどな。
大きな失敗もなく、無難に初日を終えられたと思う。
しかしクラスメイトにとっては違ったらしい。知らないうちにとんでもないことをしでかしていたことが分かったのは、数日後のことだった。
ウチにとって初日は学校よりも、帰ってきてからの方が大変だった。いや、大変だったのはエヴァちゃんかも。
「恋葉ちゃん、今寝たら明日も起きれませんわよ!」
「むり……ねむい…………」
「せめて夕方まで起きていてください。そうそう、わたくしイギリスからお土産を持ってきたのをすっかり忘れていたのです。チョコレート、食べたくありませんか?」
「食べる!」
お菓子は絶対に食べたい。チョコレートももちろん大好きです。急に目が覚めたような感覚になったけど、長くは続かず。エヴァちゃんと夕方までお喋りすることでチョコのために眠気と闘った。
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