第5話

 目が覚めると夕方だった。着ていたTシャツの裾がお腹が見えるくらい捲れあがっている。寝てる間に暑くなったのかな。

 思い出して、恥ずかしくて逃げ出したくなったけど手を握られている。振りほどいて起きてしまったら……うぅ。もう一度寝てしまいたい……。

 眠ろうとするほどに昼間のことが頭に浮かぶ。あーもう! って、叫びたくなる。結局寝れないまま、しばらくしてエヴァちゃんが起きた。

 食堂でご飯を食べて、また一緒にお風呂に入って。エヴァちゃんの態度は変わらないなって思ってたら、再びベッドに入って思い出す。エヴァちゃんは、お休み前にもキスが不可欠だって言ってたっけ。


「付き合った経験はないって言っとったけど、好きな人はいたことあるん?」

「好きな人……どうでしょう? 女の子はみんな可愛いと思いますけれど、恋愛感情はそれとまた別物ですから」


 なんだか曖昧な言い方で少しモヤっとする。

 こんな美少女が振られるなんてところは想像がつかないけど、片思いだったとか?

 それくらい教えてくれてもいいのに。思い出したくないことなのかな。


「……お家でもこんな感じでキスしてた?」

「少し違いますわね」


 手慣れた仕草でパジャマの前ボタンを外される。これも、家族で、ってこと?


「肌が触れ合っていた方が落ち着きますから」


 抵抗した方がいいのかな。でも、何が起こるか期待している自分がいる。エヴァちゃんのキスは甘い。友達のはずなのに、漫画で読んだ恋人同士のような甘い雰囲気だ。今以上に流されたら、ダメになってしまいそうな気がする。

 そんなことを考えてるうちに、エヴァちゃんも外し終わってギュッと抱きしめられる。お風呂を上がってまださほど時間が経っていないせいか、いい香りが鼻をくすぐった。


「…………」


 こんなことを、他の人にもするつもりなのかな。なんか、悔しい。


「ひゃっ」


 不意に指先がお腹をなぞって、声が出てしまう。慌てて口元を抑えると、少しだけ気まずい雰囲気だったのがふわりと和らいだ。


「声、出しても大丈夫ですわよ?」

「いやっ、でもだって、壁、薄いもん……!」

「別に、隣の声が聞こえるなんてここでは普通ですもの。あまり気にしすぎなくていいです」


 うー、違う。エヴァちゃんにだって変な声聞かれると恥ずかしいんです! まだ知り合って2日目で、そんな関係だって噂されたらどうするの!

 この寮は壁がとても薄いみたいで、ちょっと熱っぽい感じの声が何度か聞こえた。気のせいかなと思ったら、エヴァちゃんは「これも星花の名物ですわ♡」なんて言うから声なのは確定してしまったのだ。


「だめ。声は絶対出さん」

「まあ恋葉ちゃん! そんなことを言われたらわたくし、燃えてしまいますわ!!」

「ひぇ」


 いや、キスするだけよね? さっきのだってただ偶然当たっただけだろうし。

 なんて思ってたけど、それからエヴァちゃんはお腹とか首とか手とか、当たるかあたらないかという触り方をしてくる。くすぐったいような、ゾクゾクするような不思議な感覚で、声を我慢するのに必死だった。加えて午後からのお昼寝が良くなかったらしい。キスに息が上がるのも、頭がふわふわする感覚も昼間と同じなのに、いっこうに眠気はやってこなかった。エヴァちゃんも同じだったようで、ようやく寝れたのは朝方になってから。意識が遠のいていく最中、首の後ろのあたりがちりりと一瞬痛んだ気がした。


 そんなことをしていたから、大切な学校生活の初日を寝不足の状態で送ることになる。大きな失敗をせずに済んだのは、幸いにもエヴァちゃんと同じクラスになれたからだと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る