第9話 次なる戦い

〇反省房


【リーデル】「いい加減に出せぇ~~~!」


非常警報が鳴り響く中、扉を蹴り飛ばしリーデルは大騒ぎをしていた。

反省房の管理人らしき中年の小太りの男が鼻毛を抜きながら対応している。


【管理人】「うるさいですよー

      やっといなくなったらと思ったら・・・

      リーデル様でなければ警棒でお仕置きするレベルっす」

【リーデル】「私の事分かっているならすぐ出しなさい!

       あなたをクビにする位、簡単なんだから!」

【管理人】「そうは言いますけどねぇ

      リーデル様を勝手に解放したら、それこそクビなんですわ

      ここはひとつ、大人しくしてて下さいよっと」


ブチっと音を立てて、抜けた長い鼻毛を見て感心すると、息を吹き替えて飛ばす。


【リーデル】「この警報聞こえてるんでしょ!

       わたしは行かないといけないの!

       だからさっさと開けなさい!」

【管理人】「警報はこの艦のじゃないですよ

      城塞の方だって聞いてます

      だから、安心して中で休んでて下さい」

【リーデル】「このぉ・・・」


反省房には、アンチマジックが施されていて魔法を使う事が出来ない。

マナが無いので魔法力を作り出す事も出来ない。


【リーデル】「巨人・・・あの巨人さえあれば・・・」


親指の爪を噛みながら、巨人の圧倒的な強さを思い出す。

あの力があれば、姉を越え、父に認めて貰える・・・姉妹の中で私こそが最高なのだと。

その為には、力を見せつける必要がある。

まさしく、今はそのチャンスなのだ。

そう考えるといてもたってもいられず、力任せに牢を蹴り飛ばす。


【リーデル】「さっさと開けろ!

       いい加減にしないと本当にクビにさせるから!」

【管理人】「へいへい、勝手にしてくださいねっと」

【タリア】「相変わらず騒いでるなぁ」


やれやれっといった感じでタリアが入ってきた。


【リーデル】「ちょっと!なんで私だけ入れられて、あんたそっちなのよ」

【タリア】「そりゃ、あたいはな~んにもしてないし」

【リーデル】「なら、あのバカ男が入れられてないの何でよ!」

【タリア】「そりゃ、あんたが喧嘩売った感じだからでしょ」

【リーデル】「あいつが反抗的なのが悪いんでしょ!

       わたしは悪くない!」

【タリア】「あたいに言われてもしょうがないっしょ

      それに、そういう態度でいいのかなぁ~?」


ニタリと微笑みながらリーデルを見るタリアに、リーデルが言葉に詰まる。


【リーデル】「な・・・なによ?どういう事?」

【タリア】「あんたを出してくる権限貰って来てるんだけどぉ

      あんまりそういう態度とっちゃうと・・・どうしようっかなぁ~?」

【リーデル】「な・・・この・・・」


怒鳴ろうとするリーデルににやけ顔のタリアが視線を送る。

怒りの表情から、徐々に感情が入り乱れている複雑な表情になり、完全に顔を伏せた。


【リーデル】「わ・・・分かったわよ

       だ・・・して・・・ください」

【タリア】「あれあれぇ、声が小さくて聞こえないなぁ」


顔を真っ赤にしてわなわなと震えるリーデルを意地悪そうな表情でにやにやと見つめる。


【リーデル】「・・・後で・・・覚えてなさいよ・・・」


〇格納室


リーデルに睨まれながらタリア達が入室してきた。

二人を待っていた一同から少し呆れた雰囲気。


【エメルダ】「遅いぞ、何をやっていた」

【リーデル】「それなら、タリアに言いなさいよ!」


顔を背けて口笛を吹いているタリアであった。

そのやり取りにアナスタシアは不機嫌な態度を隠しもせずに言い放つ。


【アナスタシア】「今がどんな状況か分かってるんですか?」

【リーデル】「は?」


リーデルがアナスタシアを睨みつけながら近づいていく。


【リーデル】「どっちかと言えば、あんたの方こそ場違いなんじゃないの?

       コレあんた関係ないでしょ」


整備用の機材に囲まれるクルサリーダを指さしながら、アナスタシアを睨みつけた。


【アナスタシア】「な・・・」

【リーデル】「わたしをここに呼んだ理由は例の力が必要だからでしょ

       なら、あんたいらないじゃない」

【アナスタシア】「・・・それは」

【清】「そこまでよ

    今はそんなくだらない事で時間を潰している暇はないの」


怒りに血走った眼を清に向けて、怒鳴り散らす。


【リーデル】「くだらないって誰に言ってるのよ!

       このくそ小動物!」

【エメルダ】「いや、その通りだ

       今は緊急事態で、城塞砦の皆を救う事が優先だ」


ライトに向かい頷くと、ゆっくりとクルサリーダに触れた。


【ライト】「行こう!クルサリーダ」


一同の姿はクルサリーダから降り注ぐ光の中に消えた。


〇クルサリーダコックピット


【清】「・・・てかさ」

【エメルダ】「どうした?」

【清】「ちょっと・・・多くない?」

【エメルダ】「そうだな」

【アナスタシア】「ですね、さすがに窮屈感が・・・」

【リーデル】「ちょっと、何勝手に乗り込んでるのよ!」

【ヨルダ】「全くだ、少し自重してくれないか?」

【タリア】「うっは、中はこんな風になってたのか」

【達人】「・・・マジか?」


達人をして、飽きれる程の混雑。

清は達人の頭に飛び乗り、一同を見渡す。


【清】「関係ない人は降りてよ」

【エメルダ】「だとさ、さっさと降りろ」

【アナスタシア】「わ・・・私は清さんと共にいます!」

【リーデル】「勝手な事いってんじゃないわよ!さっさと降りろ!」

【ヨルダ】「クルサリーダの解析に絶対に必要だ」

【タリア】「面白そうだから、嫌」

【清】「おい!」


力が抜けそうなやり取りにライトは苦笑いしながら一同を眺めていたが、目の前のコンソールで光る魔方陣に驚く。


【ライト】「凄い・・・伝達魔方陣が高性能のになってる」

【ヨルダ】「ああ、クルサリーダそのものには加工が出来なかったが、組み込まれた装備に関しては簡単に交換出来た

      最上級では無いが、僕が用意出来る範囲で最高の物に換装している」

【ライト】「で・・・でも、こんな高価な物・・・」

【ヨルダ】「そう思うなら、結果で示してくれ」


ヨルダは様々な装置の運用数値を吟味しながら、小さく微笑む。

ライトはぎごちない笑みを浮かべると、大きく頷く。


【ライト】「うん、やってみせるよ」


両手を魔方陣に乗せる。

複雑な文様が光り輝き、文様は腕を伝いライトの全身へと広がり更に光り輝く。

一気にコックピットにオドが漲り、活力が漲る。


【達人】「おう!いい気合だ!

     やってやろうぜ!」


続いて達人も魔方陣に手を置く。

全身を駆け巡る文様が力強く煌めく。


【達人】「お・・・前よりちっとだけ軽いぞ」


ぎごちない動きではあるが、クルサリーダの腕が少しだけ持ち上がり、手を握り開く。


【達人】「っても、まだまだ重てぇけどな・・・」

【エメルダ】「だが、動く!

       管制官!ハッチを開けろ!クルサリーダを甲板に出せ!」


クルサリーダの上のハッチが順番に開いていく。

最後のハッチが開くと眩い光が差し込み、クルサリーダの巨体が上へと移動を開始した。

上に上がる程加速は増し、ハッチを飛び出した時は凄まじい音と衝撃をもって現れた。

目の前では3体のストーンゴーレムが暴れまわっている。


【達人】「うぉぉぉ!このシチュエーション!燃える!滾る!昂るぜぇ!」

【清】「もう!こんな時に不謹慎よ!

    人命が掛かってる、分かってるの?」

【達人】「分かってるよぉ!てか、これ飛べないのか?ライト」

【ライト】「ぼ・・・僕に言われても」

【リーデル】「そういうのは、わたしの領分でしょ!」


先頭の操縦席に飛び乗り、魔方陣に手を置く。


【リーデル】「さぁ!このリーデル様の活躍を見せてあげるわ!」


文様が全身を駆け巡り、輝く。

が、その途端、達人が苦悶の表情を作った。


【達人】「な・・・なんだ・・・いきなり重くなったぞ・・・」


先程までは多少動けていたクルサリーダは、鈍い軋み音を上げて固まってしまった。


【リーデル】「ちょ・・・ちょっと何よ!

       頑張りなさいよ!この役立たず!」

【達人】「うっせぇ馬鹿女!

     てめぇがそこに座ってから、重てぇわ、頭キンキンするわ・・・何しやがった!」

【リーデル】「そっちこそ、わたしの活躍に嫉妬して足引っ張ろうとするんじゃないわよ!」

【ライト】「これは・・・一体・・・」


いがみ合う二人をじっと見つめながら、清は顎下に手を当てて考え込んでいた。

ヨルダも手元のスクリーンを見つめながら、変化し続けるデータを見つめる。


【清】「ライト」

【ライト】「は・・・はい!」


突然、声をかけられ身が強張る。


【清】「ライトは何ともないの?」

【ライト】「ぼ・・・僕ですか?」


自らの身体をまじまじと見つめた後、ゆっくりと目を閉じて自分の内を感じてみる。


【ライト】「・・・僕はあまり・・・」

【清】「ふむ」

【リーデル】「ライト!さっさと前の奴に変身しなさいよ!」

【ライト】「ええ‼そんな事言われても、わ・・・分かりませんよ」

【清】「ちょっとリーデル

    少しそこから離れて」

【リーデル】「は?なんで小動物の指示に従わないといけないのよ」

【エメルダ】「リーデル、今はそういう状況ではない

       清の指示に従え」

【リーデル】「・・・くそ」


悔しそうなリーデルを見て、タリアが物陰でニヤニヤしている。

それを見て苦々しくリーデルが席を離れると。


【達人】「ちっと軽くなったぞ

     これなら動かす位は出来そうだぜ」


清はヨルダの頭に飛び乗ると、二人に向けて口を開く。


【清】「お兄ちゃん、ライト

    あのゴーレムを倒して」

【ライト】「分かりました!」

【達人】「任せろって!」


先程まで動きを止めていたクルサリーダは、重たいモノがゆっくりと動き出すようにぎごちなく歩き出す。

その歩みはゆっくりではあるが、巨体での歩行速度は体感よりも遥かに早い。

甲板の端迄来ると、達人が力み文様が煌めく。


【達人】「せぇ・・・のぉぉぉ!」


怒号の様な掛け声と共に、クルサリーダは飛び降りる。


【アナスタシア】「ええええええええ!」

【ヨルダ】「ちょ・・・ちょっと、こんな高さを飛び降りるとか・・・馬鹿なのか!」

【リーデル】「ちょ・・・この馬鹿!」


阿鼻叫喚の中、クルサリーダは轟音と共に着地する。

着地した地面は抉れ、爆発のような土煙が舞い上がる。

一同目を閉じて身構えていたが、衝撃はそれ程無くゆっくりと目を開く。


【清】「ほんっっっと無茶ばっかりするんだから!」

【達人】「飛べねぇんだから、仕方ないだろ!」

【ヨルダ】「何か勝算があっての行動なのか?」

【達人】「んなもん、ある訳ねぇ」


一同、達人を理解出来ない生き物を見るかのように見つめる中、清一人だけ額に手を当てて溜息をついた。


【達人】「重てぇけど、このまま一気にいくぜ!ライト」

【ライト】「うん!」


クルサリーダが一歩進む度に、石畳は砕け建築物に少し触れるだけで崩れ落ちる。

ゴーレム達は逃げ惑う人々目掛け、無慈悲な一撃を叩き落とす。

轟音と共に赤い模様が地面に描かれ、次の獲物を探して動き出す。


【ライト】「人間を・・・狙っている」

【達人】「みてぇだな・・・胸糞わりぃ!」


〇崖の上層


その様子を上から見ていた二人が豪快に笑いながらクルサリーダを指さす。


【賊の女】「なぁになぁになぁにぃ?あははははは

      あの不細工なゴーレム、マジウケる」

【賊の棟梁】「まじだっせぇ見た目だな!ぶははは」

【賊の男】「でも・・・この砦にゴーレムが配備されていたなんて話は聞いてないよ」


二人はピタリと笑いを止めて、真剣な目つきでクルサリーダを見つめる。


【賊の棟梁】「確かにな・・・こりゃなんかあるか?」

【賊の女】「だったら、例のヤツで一気にやっちゃおうよ

      その方があたしも満足」

【賊の男】「・・・でも、なんだろう

      あのゴーレムから・・・何か特別なモノを感じる・・・」

【賊の棟梁】「状況次第では行くぞ

       準備しておけ」

【賊の女】「てか、すぐ行っちゃおうよ

      マジでジェノサイドしたいんだけどぉ」


ギャーギャー騒ぐ賊の女を無視して、二人は注意深く様子を探り始める。

自分達がけしかけているストーンゴーレムより動きが悪いクルサリーダをまじまじと観察し始めていた。


〇城塞砦


目の前に暴れまわるストーンゴーレムが迫ってきていた。

モニターに映るゴーレムは返り血で所々赤い斑点が出来ている。

クルサリーダはそのままゴーレム達に体当たりをして、倒れ込んだ。


〇コックピット


【リーデル】「ちょ・・・ちょっと!何なのよ!コレ

      殴るとか蹴るとか、それ位の事出来るでしょ!」

【達人】「ざっけんな!クソ女

     動かすだけでもすっげぇぇしんどいんだぞ!これ」

【リーデル】「はぁ!言い訳してるんなら、さっさと代わりなさいよ」

【達人】「やれるもんならやってみろ!

     出来る訳ないからな!」


さっと飛び出した達人のポジションにリーデルが入ると、魔方陣に触れる。


【リーデル】「うぶぅ」


全身に文様が広がった途端、リーデルは派手に吐き散らかした。

達人はビクビクと痙攣を始めたリーデルの襟首を掴むと一気に引き出した。


【達人】「分かったかよ」


朦朧とした表情で達人を睨みつけながら


【リーデル】「な・・・なに・・・すんのよ・・・これから・・・ちゃんと・・・ごべぇぇぇ」

【達人】「ぬぉわぁ!てめぇ何人に向かって吐いてるんだよ!

     汚ねぇなぁ!」


嫌そうなタリアにリーデルを預け、吐瀉物まみれのポジションに戻る。

露骨に嫌そうであった。


【エメルダ】「とはいえ、このままじゃまともな戦闘は無理じゃないか?」


モニターには起き上がるゴーレム達が映っている。


【達人】「くそ、ビームライフルとかゲッタートマホークが欲しいぜ・・・」

【清】「・・・ゲッター・・・」


アナスタシアの上の清が考え込み、じっとライトと達人、そして空白の先頭のコックピットを見つめた。


【清】「それだわ」

【アナスタシア】「え?何がですか?」

【清】「お兄ちゃん、それよ、ゲッターロボ」

【達人】「これのどこがゲッターロボなんだよ」

【清】「違うわよ

    操縦の方」

【達人】「操縦って・・・三つの心を一つにってやつか?」


清はびしっと指をさして。


【清】「それ!」


一同の視線が清に集まる。


【清】「どうしてそうなるのかという魔法の理屈は置いといて

    クルサリーダがどうやって動いているのかを考えてみた

    一つの生命体と考えた場合、ライトは心臓、お兄ちゃんは神経や筋肉等フィジカル、そして魔法回路の脳としてのリーデル」

【エメルダ】「3人で一つ形成するのか・・・」

【清】「そう・・・ただ、それだけの条件なら操縦にこんなに苦労する筈が無い

    なら、何が原因なのか?」

【達人】「三つの心が一つになってない」

【清】「そういう事、シンクロ率・・・つまりエヴァンゲリオンと言ってもいい

    3人の心が一つに・・・高いシンクロ率が無ければ満足に動かないのよ」

【ヨルダ】「なるほど・・・本来脳一つの指令が、それぞれが勝手に命令を出す脳が3つ

      命令が交錯して動きが取れない」

【清】「今回、最初の起動でお兄ちゃんは前よりマシと言ってたのに、リーデルが加わった途端、それが出来なくなった

    これは、ライトとお兄ちゃんのシンクロ率はそこそこあったけど、リーデルのせいでシンクロ率が落ちた・・・それ所か乱されたから頭痛も起きた」

【ヨルダ】「・・・十分な理論だ

      でも、それなら先頭の操縦者はリーデルである必要は無くないか?」

【清】「ないわ

    思い返せば、前の時も艦を襲う巨人遺骸を3人が倒すという思考で一致した

    そこで変身が起こり炎のクルサリーダになった・・・と思う」

【エメルダ】「では、意思統一が出来ればいいんだな!」

【清】「それは・・・そうなんだけど・・・」


身を翻し、先頭のコックピットに滑り込む。


【エメルダ】「なら、簡単だ

       行くぞ!奴等を倒す!」

【ライト】「はい!」

【達人】「おう!」


エメルダの全身に文様が煌めく・・・しかし・・・

変化はない・・・それどころかクルサリーダの動きは鈍くなっていく。

大きく目を見開き、溢れる汗が流れ落ちる。


【達人】「な・・・なんだ・・・糞女並みに重てぇぞ・・・」

【エメルダ】「な・・・なぜだ!意識は統一出来ている筈だぞ」


全身を小刻みに震わせ、絞り出す言葉は悲壮感すら感じる。

清はヨルダと視線を合わせ、頷く。


【ヨルダ】「司令・・・恐らくあなたでは同調は難しいと思います・・・」

【エメルダ】「・・・説明しろ」

【ヨルダ】「あなたが・・・司令だからです

      良くも悪くも、色々分かり過ぎる・・・考え過ぎる

      ただ戦えばいいってもんじゃない・・・損害は・・・状況は・・・他の者達はと様々な事柄が目まぐるしく走る・・・それはライト達の様に純粋に戦闘に向かう意識とはかけ離れているんですよ」


言葉にゆっくりとシートに身を委ね、手で目元を隠す。


【エメルダ】「・・・年は・・・取りたくないもんだな」


少し寂しそうにコックピットを離れる。


【清】「でも、エメルダさんで無くても、いきなり同調をして戦うのは難しいよ

    どうする?」


その時、外から声が響く。

一同はモニターへ視線を移す。

そこには、ストーンゴーレムの上に立つフードで顔が隠れた賊の棟梁が目をギラつかせていた。

隣のゴーレムには、少女らしき姿もあり、こちらを見てにやにやと笑っていた。


【賊の棟梁】「ここにゴーレムが配備されているのは初耳だが

       なんだ?満足に動く事が出来なさそうだな」


勝ち誇り、見下す。

自信に満ちた顔に、達人がイラついて来ていた。


【達人】「ああ?何抜かしてやがる!

     今からぶっ飛ばしてやるから、覚悟しやがれ!」

【賊の棟梁】「ぶっ飛ばす?

       それは・・・こういう事か?」


ストーンゴーレムの拳がクルサリーダの頭の部分を殴りつけた。

凄まじい轟音と衝撃が広がり、クルサリーダの巨体が大きく後ろにのけ反った。


【清】「ちょ・・・ちょっと!大丈夫なの?」

【達人】「ああ・・・この程度の攻撃なら単発喰らってる程度じゃ問題ねぇ

     だけどよ・・・」


目の前で動き出すストーンゴーレムを見つめる。


【達人】「動きが変わったな・・・」

【ライト】「でも、ゴーレムは核に組み込まれた動きしか出来ない筈です」

【達人】「んな事知らねぇよ

     力強さも動作も位置取りも何もかも・・・全てが数段上がってるぜ」

【アナスタシア】「どうして・・・」

【エメルダ】「何らかのカラクリがあるんだろうな・・・

       それが分からなければ・・・まずいか」

【達人】「まずくねぇよ」


更なる一撃が命中し、コックピット内に衝撃が響く。


【清】「きゃあぁぁあ」

【アナスタシア】「清!」


宙を舞う清の身体を飛びついてキャッチし、胸元に抱く。


【アナスタシア】「どうにか出来るんですか!」

【達人】「満足に動ければな・・・だが、今は精々致命傷喰らわないように防御するのが精いっぱいって所だ」

【ライト】「僕がもっと達人さんと同調出来れば・・・」

【ヨルダ】「同調はそんな簡単なもんじゃない

      それに・・・まだ仮説だしな」

【清】「仮説だけど、確信してる・・・証明さえ出来れば・・・」


複雑な表情で清を見つめていたアナスタシアが操縦席に飛び乗る。


【清】「何する気?」

【アナスタシア】「私がやります!」

【清】「あなたもどちらかと言えばエメルダ司令と同じタイプだから・・・」

【アナスタシア】「いえ・・・私と司令では根本は違います

         ライト君、達人さん、お願い私を・・・信じて!」

【ライト】「アナスタシア様・・・」

【達人】「おっしゃぁ!いい気合だ

     心を合わせるなら簡単だ!敵を倒したいと思え!」


叩きつけるように魔方陣に触れ、文様が全身を煌めかせる。

だが、その反面、アナスタシアの全身に激痛と不快感が駆け巡っていた。

思考が歪む・・・これでは同調所では無い。

強烈な吐き気、悪寒、眩暈が襲い意識を保つ事さえままならない。

外で何か叫んでいる声がする・・・だけど、それを意味ある言葉として認識する事が出来ない。

混濁した意識の中、無力な自分に絶望していく。


【アナスタシア】『私は無力・・・今も・・・あの時も・・・』


白銀に美しかった街並みは、一夜にして業火に包まれ崩壊していく。

怒号と悲鳴、慌ただしく駆け回る兵士達。

アナスタシアの故郷である王国「ニヴィルヘイム」。

一人の天使の襲撃によって、魔導大国であった国の王都は崩壊しつつあった。

最高の魔導兵器に身を包んだ精鋭の戦士達が挑み、無残に散っていく。

天使は涙を流し、どうして?どうしてと口にしながら多くの民を滅す。

その光景を城の高台から見ていた父、母、兄、そしてアナスタシア。

ただただ、茫然と惨劇を見つめる事しか出来なかった。


【母】「・・・やはり・・・来ましたか・・・」

【父】「・・・うむ」


鎮痛に満ちた両親の顔を今でも克明に覚えている。

その時は、あまりにショックが強すぎて言葉の意味などまるで分かっていなかった。

両親はぎゅっと二人を抱きしめた。

その感触を体温を自らに刻み付けるかのように。


【父】「すまぬ・・・私の判断は・・・間違っていたのやもしれぬ・・・」

【母】「お前達の未来を・・・作ってあげる筈が・・・」


兄が何か叫んでいたが、その全ての音は爆発や悲鳴でかき消される。

父は近衛隊長を呼ぶと二人を預け、国外への脱出を命じた。

抱えられ泣き叫びながら父と母を呼ぶ。


【父】「すまぬな・・・わしは王として・・・この責任を全うせねばならん」

【母】「この国の最後まで・・・この国の責任者としての責務を果たさねばなりません」

【父】「・・・こんな事になってしまったが・・・

    お前達の今後の人生が・・・素晴らしいものであるよう」

【母】「祈っておりますよ」


優しく微笑む両親の顔が悲しくて辛くて、大暴れして戻ろうとした。

けど、王国でも最強と呼ばれる近衛隊長はビクともしない。

国を脱出するまでの地獄の光景は、未だに脳裏に焼き付いて離れない。

母を呼びながら潰される幼子・・・年老いた両親を助けようと目の前で殺され、その両親の悲痛な叫び、恋人を守る為に立ち上がるも一瞬にして共に焼かれる二人。

昨日までの平穏が噓のよう。

国境まで来ると、近衛隊長は私達を降ろし、目線を合わせて語り掛ける。


【近衛隊長】「いいですか・・・お二人は絶対に生き残ってください

       あなた達が生きてる限り、国は滅びない

       いつか力をつけて国を再興するのです」


兄は何か怒りながら怒鳴っていた。

私は、ただただ混乱し、大好きな猫のぬいぐるみを抱きしめて泣いていた。

悲しかった・・・辛かった・・・何がどうとか分からないけど嫌だった。

同盟国だった風の国の斥候に預けられ、近衛隊長は王都へと戻っていった。

自分も最後まで責任を果たさねばならないと。

暫く、兄と共に風の国に世話になった。

だが、夜な夜なあの日の悪夢は強くなり、物事が分かるにつれ、王族としての責務を果たさず逃げた自分が惨めになっていった。

兄はあれ以降、無口になり、そしてある日忽然と姿を消した。

ただ泣くしかなかった。

もう誰もいなくなった。

自分に出来る事・・・それは国の再興。

その為には力がいる。

あの天使に打ち勝つ程の圧倒的な力が!

力が欲しい!欲しい!欲しい!欲しい!

飢え似た渇望、狂気に近い慟哭が全身を駆け巡り、大粒の涙を零しながら絞り出すように・・・。


【アナスタシア】「力が・・・・欲しいぃぃぃぃ‼」


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