第4話 覚醒
〇艦橋
【アナスタシア】「現状報告」
司令官席の横に立ち、巡るましくデータを表示するモニターを指先で操作しながら報告を待つ。
【オペ1】「現在、第一から第六までの魔導システム起動40%」
【オペ2】「第七から第十二まで魔導システム起動確認、出力15%」
【アナスタシア】「他の副司令官達からの報告は無いか?」
【オペ3】「全ての副司令官の職務遂行中、報告なし」
【アナスタシア】「・・・当たり前か、起動テストも無しのぶっつけ本番
余裕なんてある訳ない・・・か」
暫く、モニターデータを読み続けていた時。
【オペ1】「副指令!巨人遺骸がこちらに向かってきます!」
【アナスタシア】「何!」
外部を映す一番大きなモニターには、全力で船に接近してくる巨人遺骸の姿があった。
大きく拳を振りかぶると、艦首に強烈な一撃を放つ。
【アナスタシア】「くっ!」
オペレーターの悲鳴と共に、強烈な衝撃が船を襲った。
巨人遺骸が大きいとはいえ、船に比べようもない。
しかし、その一撃は船全体に大きな衝撃を与える程の威力を誇り、このまま攻撃を受け続ければ、脱出どころか撃沈されかねない。
【アナスタシア】「起動できる装備は無いのか!」
【オペ3】「ダメです・・・起動の為に全ての出力を回していますので・・・装備に回せる魔力が足りません」
更に衝撃が走り、悲鳴と怒号が入り混じる。
危険を示すモニターが幾つも開き、警報と赤い光の明滅。
アナスタシアに、どうするのかを問うモニターが一斉に開いた。
強く唇を噛みしめ、巨人遺骸のモニターを睨みつける。
その時、タリアが指令室に飛び込んできた。
【タリア】「ちょ・・・ここまで来てんじゃん!」
【アナスタシア】「タリア!
非常時とはいえ、指令室への入室は・・・」
【タリア】「そんな事言ってる場合じゃないでしょ」
緊張で青を越えて白くなっているアナスタシアの顔色を見て、エメルダが何を手伝えと言っていたか理解した。
アナスタシアは優等生だ。
規則を守り、教師や上官の言う事は絶対、言いつけられた事は完全にこなす。
傍から見れば非の打ち所の無い完璧さだ。
しかし、タリアから見れば余裕が無く、自分が無く、人形みたいだと常に感じていた。
何より一番嫌いな人種だった。
ただ、今にも泣きそうになりながらも、必死に自分の役目を果たそうとしている姿を見て、これはこれで大変なんだなっと感じる。
こんな状況でなければ気が付かなかっただろう。
ふぅっと大きく息を吐き、アナスタシアの顔を両手で掴むとぐいっと引き寄せた。
【タリア】「罰なら後で幾らでも受けてやる
だから、今は生き延びる事を優先するんだ」
【アナスタシア】「生き・・・延びる・・・」
【タリア】「そうだよ
あんたが判断しなければ、ここでみんな死ぬ
現場でアレを間近に見て来たから、はっきりと分かるんだ」
モニターに映る巨人遺骸を指さす。
【タリア】「アレは、今までのうちらが習ってきた教科書通りの化け物じゃない
真面目に対応していても正解なんてないんだ
自分の決断に覚悟を決めろ!」
偉そうな事を言ってはいるが、足はがくがく、心臓バクバク、漏らしたズボンの中はびしょびしょだ。
でも、ここで躊躇っていたら間違いなく全員死ぬ事だけは分かる。
自分が生き残る為にも、ここでアナスタシアに固まっていられたら困る。
【アナスタシア】「タ・・・タリア・・・」
【タリア】「なんだ?」
【アナスタシア】「私を・・・叩きなさい!」
アナスタシアにしても、何かきっけかが欲しかった。
今、底辺で足掻く二人は、立場も家柄も違うが似た者同士。
【タリア】「は・・・はは・・・そんな事まで偉そうに」
手を振り上げて端正なアナスタシアの頬を叩く。
口の端から流れ出る赤い筋をぐいっと拭うとタリアを強く睨みつける。
【アナスタシア】「加減無しですね」
【タリア】「ああ、ずっとこうしたかったからな
折角のチャンスだし、もったいないだろ」
二人はニヤリと笑う。
アナスタシアは力強く立ち上がると、大きく手を振り指示を与えた。
【アナスタシア】「このまま航行への動力を主に回せ
残りは防御へと回せ・・・攻撃は捨てる!」
【オペ1】「い・・・いいんですか?」
【アナスタシア】「司令はここを任せると戦地に向かった
なら、私はそれを信じてやれる事をやるまでです」
各オペレーターは小さく頷くと、忙しく指示を回していく。
タリアは壁にもたれ掛かると、ずるずるとへたり込んだ。
【タリア】「つか、落ちこぼれに荷が重いっすよ
後は何とかしてくれよな、リーデル」
〇コックピット
【エメルダ】「おい!なんとか動かせないのか!
まずいぞ!」
【達人】「出来ればやってんだよ!
それにしても、そこのバカ女が触れた瞬間頭ん中がぐちゃぐちゃになったんだけどよ」
【清】「これを作ったのは君なんだろ?
何か方法は無いの?」
【ライト】「そ・・・そうは言われても・・・ただ、型を作っただけだし・・・
僕にだって何がなんだか・・・」
リーデルが頭を激しく振り、何かを払いのけるとライトを睨みつけた。
【リーデル】「なんなのよ!これ!
頭ん中に色んな命令がごちゃごちゃに入って来たわよ!」
【ライト】「そんなの分かりませんよぉ」
【リーデル】「分からないじゃないでしょ!
早く何とかなさい!」
【エメルダ】「黙れ!」
エメルダの一喝が、全員がピタリと固まった。
【エメルダ】「今はそれぞれが勝手な事を言ってる場合ではない!
やらねばならない事は明快で単純だ!
あれを見ろ!いいのか?このままで」
船首の部分が攻撃を受けて凹み、部分的に装甲が剥がれ始めている。
このまま攻撃が続けば、直ぐにでも装甲は剥がされ遺骸の群れがなだれ込むだろう。
そうなれば逃げ場は無い。
阿鼻叫喚の地獄が待っているだけだ。
【エメルダ】「あれを止められる可能性があるのは、巨人遺骸の顔面を砕き、地に伏せさせたこの巨人だけだ
何としても動かさねばならん!」
モニターに映る巨人遺骸は攻撃を加速させていく。
一刻の猶予も無い。
【リーデル】「ふざけんじゃないわよ!
わたしの街をめちゃくちゃにした上に、領民まで・・・」
【達人】「弱ぇもん狙って来るとか・・・ざけんじゃねぇぞ!」
ライトの脳裏にヨアンの言葉が響く。
【ヨアン】「あなたに道を繋げます・・・」
ぎゅっと強く拳を握りしめ顔を上げる。
【ライト】「僕は・・・僕を信じてくれたヨアンに応えたい・・・
あの巨人遺骸を倒したい!」
【達人】「ああ、ぶっ叩きまくってやるぜ!」
【リーデル】「当たり前よ!
ただじゃおかないわ!」
リーデルが魔方陣に手を叩きつける。
文様が一気にリーデルの全身を廻り輝く。
【リーデル】「行くわよ!ぶっ殺してやるわ!」
突然、ゴーレムの周りに激しい蒸気が噴き出し、その姿を隠した。
もうもうと立ち昇る蒸気の中で、巨大な影がゆっくりと起き上がる。
ソレはゆっくりと動き出し、蒸気を突き破り姿を現した。
ずんぐりむっくりのゴーレムではない。
全身を深紅の鎧で身を包んだ騎士のような姿。
豪華に装飾が施された鎧のような装甲の所々からは時々炎が噴き出し、激しい気流を生み水蒸気を吹き飛ばしていく。
腰にある巨大な剣は、炎を具現化したような威容を示していた。
兜の奥で深紅の瞳が強い光を放ち始める。
【清】「な・・・なによ・・・コレ?
変身・・・した?」
【ライト】「す・・・すごい・・・」
【達人】「なんだ・・・めっちゃくちゃ軽くなった・・・まるで自分の身体みてぇだ」
【リーデル】「何・・・魔力が漲る・・・今ならどんな魔法だって使えそう!」
その光景に、百戦錬磨のエメルダも言葉を失う。
過去の大戦ですら、巨人型の遺骸とは数を頼りにヒットアンドウェイを繰り返し倒していた。
その上で多少の犠牲を覚悟で倒す、そういうモノだった。
だが、これは巨人型の遺骸と同等のサイズを持ちながら、この魔力の充実。
単騎で巨人遺骸と対等以上に戦える戦力。
皆が求めてながら、到達出来なかった夢がここにあった。
身体が震える、今までの戦場で辛酸を舐めさせられて来た敵に立ち向かえる力、それを目にした感動。
溢れそうになる涙を必死に堪え、ライトの肩をポンと叩く。
ライトは小さく頷く。
【ライト】「行きましょう!」
【達人】「クソ女!行けんだろうなぁ!」
【リーデル】「当たり前でしょ!
見てなさい!」
リーデルから流れる光は、コックピット内にある回路を通じて、達人へと繋がる。
深紅の鎧のゴーレムは右手で剣の柄を掴み、一気に振り上げる。
剣からは巨大な炎が噴き出し、深紅の巨人の周りに陽炎を引き起こす。
【リーデル】「船から・・・離れろぉぉぉぉ!」
一気に振り下ろされた剣から巨大な火球が放たれ、一直線に巨人遺骸へと放たれた。
激しい爆発音と共に巨人遺骸は炎に包まれ、身を焼く苦しさに身悶えする。
【達人】「よっしゃぁ!
一気に決めんぞ!」
【リーデル】「言われるまでも無い!」
深紅の巨人は、ぐっと身を低く構えると一気に巨人型遺骸へと滑空する。
全身を焼かれながらも迎撃態勢を取る巨人遺骸。
悲鳴にも似た雄叫びを上げながら渾身の一撃を深紅の巨人へ向けて放つ。
【リーデル】「こんにゃろぉぉぉ!」
一撃を身を屈めて躱し、下段から一気に剣を振り上げる。
大地をも刀身で切り裂きながら、灼熱の深紅の刀身へと変貌し炎を巻きながら巨人遺骸の腕を切り落とした。
遅れて強力な灼熱の炎が下から吹き上がる。
腕は一瞬にして炭となり、更に粉となり、そのまま炎の中に消えていった。
炎は腕を消し去っただけでは無く、巨人遺骸の前面を一気に焼き焦がす。
肉を焼く強烈な匂いが一面に充満した。
遺骸の群れ達は、深紅の巨人がまき散らす灼熱に悶え苦しみながら焼死していった。
巨人遺骸の前半分が炭となり、崩れ落ちると体液や内臓がずるりと零れ落ちる。
それでも、まだ深紅の巨人に向かってきた。
【達人】「しぶてぇな!」
【リーデル】「領民達は、私が守る!
いい加減、くたばれぇ!!」
振り上げた剣は上方より、巨人遺骸に向けて一気に袈裟切り。
高い金属音が響き、切り下げた姿勢で深紅の巨人は留まる。
巨人遺骸の身体は、刀身が抜けた場所から炎を噴き上げ、身体がずれると、そのまま崩れ落ちていった。
【ライト】「え・・・や・・・やった・・・の?」
巨人遺骸は激しい炎に包まれて徐々に炭になり、消えていく。
【エメルダ】「は・・・はは・・・信じられんな・・・」
【清】「・・・」
モニターに映る巨人遺骸の最後を、それぞれがそれぞれの感想を持って見つめていた。
【ライト】「やった・・・やったよ・・・ヨアン・・・
僕は・・・僕は・・・」
溢れる涙が止まらない。
色んな感情が入り混じって、自分がどんな顔をしているのかすら分からない。
ヨアンが隣で自分を褒めてくれている気がして、嬉しい感情とヨアンがもういない実感に悲しみが噴き出す。
【リーデル】「凄い・・・この力があれば・・・わたしは姉達を越えられる
あは・・・あははははは!ハハハハハハハハハ!」
高笑いするリーデルを横目に、清は激しく呼吸をしている達人の元へ。
【清】「お・・・お兄ちゃん」
顔だけ清へ向けて、ニィっと豪快に笑う。
【達人】「どうよ、やってやったぜ」
【清】「・・・うん、お兄ちゃん、凄いよ」
【達人】「だろ・・・」
そういうと達人は白目を剥いて気を失った。
途端、深紅の巨人は出現した時と同じに蒸気を噴き出し、その姿を隠した。
コックピットの中も、激しい衝撃に皆が振り回されていた。
【リーデル】「な・・・何よ!一体」
【エメルダ】「しっかり何かに掴まり、身を固定しろ!」
気を失っている達人と猫の姿の清は宙に放り出された。
【清】「きゃぁぁぁぁ!」
二人が激しく壁に打ち付けられそうになった時、ライトが二人の間に入り受け止めた。
【ライト】「あう!」
【エメルダ】「ライト!」
素早く二人と一匹を抱えて、エメルダは元の位置へと戻る。
衝撃は徐々に収まり、完全に収束した。
【リーデル】「い・・・一体何だったのよ・・・って・・・えぇ!」
外部を映すモニターには、元の木人型に戻った巨人が殴られた時の損傷そのままに戻っていた。
【リーデル】「ちょ・・・ちょっと、何よコレ!
ライト!説明なさい!」
【ライト】「・・・」
【リーデル】「何とか言いなさいよ!」
【エメルダ】「そう怒鳴るな
こいつらを庇って気を失っているようだ」
エメルダに抱えられ、ライトはぐったりとしていた。
その時、エメルダの前に通信用モニターが開き、驚きに満ちた表情のアナスタシアとタリアが画面せましと映し出された。
【アナスタシア】「よかった・・・通じた」
【タリア】「し・・・司令!
アレ何?凄いの何?」
【アナスタシア】「そ・・・そうです
あんな兵器の話は聞いてません!」
【エメルダ】「そりゃ話せないだろ
私も知らなかったからな」
【アナスタシア】【タリア】「は?」
【エメルダ】「とりあえず、目の前の窮地は何とかなった
作業用アームでこいつを拾って格納してくれ」
【アナスタシア】「は・・・はい・・・でも、それ・・・」
【エメルダ】「詳しい話は後だ
まずはこの街より脱出が先
とりあえず、隣の「エデスパ」を目指す」
【アナスタシア】「わ・・・分かりました」
【タリア】「ちょっとリーデル
さっきの何よ!あの凄いやつ」
タリアの言葉に満面の笑みを浮かべると、胸を張り自らを誇示する。
【リーデル】「ふふん、あれこそわたしの真の力よ」
【タリア】「まじか・・・凄い・・・凄いよ
正直、ちょっと覚悟決めてたからね」
【リーデル】「感謝しなさい
わたしこそが今後、世界を救う英雄なのよ」
【タリア】「あの姿を見たら、納得するしかないな」
【リーデル】「そうでしょ」
【エメルダ】「さっさとしろ」
迫力の一瞥に二人とも言葉を失う。
【リーデル】【タリア】「・・・はい」
激闘は終わりを告げ、暗闇を切り裂く朝日が差し込む。
しかし、照らされる街は既に瓦礫と化し、暮らしていた人々だったモノの残骸が一面に広がる。
弔う事も出来ず、今はこの場を離脱する事しか出来ない一同は胸中に不安と義憤を高まらせるのみであった。
それでも、これは始まり。
次の脅威が迫る事をエメルダは予感していた。
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