第3話 的中
君は素直に本心を言う癖があった。普通の人よりも秀でている特性がある君にとってそれは諸刃の剣でもあった。人によっては嫉妬心を買われるかもしれない危険性があったし、本人に悪意はなくても必要以上に責められ、君自身が不幸を背負うんだって、あの頃の僕はもっと忠告しておけば良かった、と今なら思う。
「千尋は将来、何になりたい?」
部活動の最中、君が矢尻を布巾でケアしているとき、僕は何の気なしにいった。
「分からない。やりたいことも特にないし、本が好きだから司書になろうかな、と思っている。真尋君は弓師になりたいんだよね?」
その時の僕はゆっくりと頷いていただけだった。君が滔々と告げている光景にもあの頃の僕は惹かれていたように思える。
「本が好きなら司書もいいかもしれないね。大学はどこがいいのかな」
「そうだね。一度は外へ出たいな。東京には暮らしてみたい」
皮肉にも予想外の結果であんな悲劇に君が見舞われるとは僕は想いも寄らなかった。あの頃の僕に現在の願いを告げられるのならば、もうちょっとだけ一歩踏み出せば良かったのだ。もじもじしないで行動に早く動かせば良かったのだ。
「芸能界入りの話は進んでいるのかい?」
「うん。東京へ行く口実にもなったし、厳しいうちの親もそんな大手事務所ならばチャンスじゃないかって口を割ってくれた。そう簡単にあるようなチャンスでもないし、やれることはやってみようと思って」
「千尋ならばできるよ。この前も演技の勉強にシェイクスピアの戯曲を図書館で借りていたじゃないか」
「シェイクスピアは難しかった。でも、勉強になるな、と励みになった。シェイクスピアを読み終えたら三島由紀夫の戯曲も読んでみたい。『近代能楽集』も取り寄せて勉強しているんだ。確か、真尋君が勧めてくれたんだよね」
何度悔やんでももう遅い。君と何度も中体連や県大会で行射しても僕がスピードの速い俊敏な矢のように君のハートさえも射貫けなかった。あの頃だったら引き戻せるきっかけはいくらでもあったんじゃないか。無理をさせたから良くなかったんじゃないか。もっと心配してやれば良かったんだ。そのとき、僕はあまり矢が的中しない傾向があったのに妙に的に何度も当たったのを妙に覚えていた。まるで、悪い予感が的中するように。
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