第2話  弓師

 君は一日籠って蔵書を物色するのが好きでその読書に耽る行為さえも隠し撮りされてしまっていった。僕はそんな不埒な奴らを注視するように君から守っていた。

 その頃の僕の夢は家業である弓師だった。僕の意志というより、父も祖父もその先祖代々も大弓製作を生業としている僕の家系を鑑みれば、家業を継ぐのはごく自然だった。僕も反発もなく、大弓を真竹から干して製作する過程を物心がつく前から見て育ってきたわけだから高校在学中から父から指導を受けていた。

 君は弓道部に所属していた。中学時代は中体連で優勝した経験もあるほど君の弓の腕前は別格だった。僕も運動全般は得意だったけど父の影響で中学は弓道部に所属した。

 僕は思い出す。君が初めて弓を触り、ゴム弓で練習し、それから、藁で出来た的で練習する間もなく、的当てに立ち、数日も経たないうちに射法八節をマスターし、その矢を二十メートル離れた的の真ん中に当たったことを。器用な君は平均的な上達よりも遥かに上へ行っていたのだ。学校の成績も常に十番以内をキープしていたし、文武両道とは君のためにあるような言葉だった。

「すごいなあ。千尋は」

 そのとき、僕が思わず驚愕するとポニーテールの君は楚々と笑った。

「そうかなあ。見様見真似でやったらできちゃったんだ」

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