第11話 幼なじみとお勉強
「えーっと、じゃあここはこの公式とこの公式使うってこと?」
「……うん」
「んで、こっちは……あ、そうか、これはこの式の答えを代入するんだっけ?」
「……うん」
「んで、琉生はなんか言いたいことがある訳?」
「……うん、あ、いや、いいえ」
「な、何よさっきっから元気無いわね」
「だってそりゃ……」
あぁ……!! もう!! 集中できないよ!!
なんで数週間前まで大好きだった女の子が隣でノーブラでしかも俺は勉強教えてるんだよ!!
男琉生は目が泳いで仕方なかった。
「ま、まださっきのこと……引きずってんの?」
「引きずるも何も……一応お前も女の子だろ」
「そ、そうだけど……!」
「あー! もう流石にこれ着てくれ! 俺が耐えられん」
そう言って俺はタンスから適当に取った灰色のベストをノールックで手渡した。
そうすると割と直ぐに花蓮はベストを受け取りパーカーの上から着た。
「正直……助かる」
「あぁ……それはどうも」
俺はコップのお茶をグビっと飲み干し、勉強を再開させた。
「え、えっとこの式はこっちの公式だっけ?」
「違うわ」
「何よ急に強気になっちゃって」
「違うもんは違うんだよ。ほらほらやり直し〜」
俺はいつも通り煽ったつもりだった。そして仕返しされる準備もできていた。でも、彼女はいつもとどこか違った。
「……」
「……花蓮?」
「やっぱり私たちはこんな感じがお似合いよね」
「と言いますと……?」
「ううん。何でもない。ちょっと吹っ切れたってだけよ」
そう言ってペンを進める彼女の考えは全くもって分からなかった。でも、ココ最近でいちばん清々しい顔をした彼女の横顔は、俺の昔からの仲のいい友達であり、幼なじみの女の子であった。
そしてこの一言から約1時間。何ら変わらず勉強は進んだ。そして、お開きにしようか、となった時だ。
「さっきはごめん。なんかよくわかんない意地張ってた」
「花蓮に似合わず急に素直だな」
「素直がダメって言うの?」
「ダメじゃないです」
「だよね?」
「はい」
いつも通り圧をかけてくる花蓮。そしてそれにいつも通り答える俺。
「琉生はさ、私の事、今はどう思ってるの」
「どうって言われても……」
こんな質問されたこと無かった。したこともなかった。でも、つい数週間前までの俺なら確実に好きだ、と答えていただろう。いや、そんな勇気なんてないか。
確実に今俺が花蓮に対して言えること。それは。
「大切な幼なじみで大切な友達だよ」
こんなこと初めて言った。多分、数時間もすればこのセリフを思い出し恥ずかしくなるだろう。でもこの言葉に嘘は無い。
「ふふふ、ありがと。私も」
「何笑ってんだよ……って先に言わすのせこいぞそれ」
「だって私も思ってるもーんだ。へへっ」
にへらと笑う彼女の顔はいつも以上に魅力的でかつ、最高の笑顔だった。
俺の幼なじみ兼友達の花蓮は紛れもない素晴らしい女の子であるのだと再認識した。
「なんかよくわかんないけど、まぁ……これからもよろしくな。幼なじみとして、友達として」
「うん。じゃ、また明日学校でね」
「家の前まで送るぞ」
「あら、気が利く男の子じゃない」
「うるさい。あ、ベスト脱げ。怪しまれる」
「はいはい」
そう言ってベストを捲りあげ、脱ごうとする花蓮。だめだ、あぁ……! だめだめ!
ベストに引っかかりそのままパーカーも捲くりあがっている。もう、やばい。おへそは見えてるぞ。
「あ、おい! 見えてるって!」
「……」
俺がそう言うとピタッ、と脱ぐ手は止まる。そして顔を隠していた脱ぎかけのベストからひょこっと顔を出し、またにへらと笑った。
「ありがと」
俺の思考は停止した。彼女は今何を思ってこの行動をしたのか。明らかにわざとだった。今はベストだけを脱ぐ彼女が目の前にいる。そして、脱いだベストをベッドに放り投げた。
「私やっぱ琉生こと好きじゃなかったみたい」
「うぇ!?!?」
「変な声出すな」
「え、そ、それって……」
「嫌いとかじゃないっつーの。私は琉生とずっと友達でいたい。こうやって馬鹿なことしたいし、一緒に勉強だってしたい。たまには遊びにだって行きたい。友達としてね」
「は、はぁ……」
「私、変に悩むより友達としての琉生が好きだったのかもしれない。だからこれからもよろしく。友達琉生君」
これを聞いた俺は何を思うのだろう。友達としての好き。そう言われてみれば俺もそうだったのかもしれない。でも、俺の中には明らかに違うものもあった。彼女も強がりなのだろうか。
「うん……言われなくても」
「やっぱここでバイバイでいいよ。お邪魔しました!」
「え、あ、ちょ」
「あ、別に襲いたかったらまだ間に合うよ〜」
「うるさいわ! そんな気微塵もありませんから!」
「ふん。あらそう。じゃ、また明日ね」
そう告げて彼女は部屋を出ていった。去年までならこれが当たり前だった。何を血迷ったのか俺は今回家まで送るとか言い出したのだ。
変わり始めていた俺の気持ち。そして、何か変わったであろう花蓮の気持ち。
ピロピロ
咲さんからだ。
都竹咲:琉生君に勉強教えて貰えるなんて私は贅沢だなぁ!
そして、変わらない咲さんの気持ち。きっと今が、人生の中で一番考えなければいけない時期なのだと、俺は悟った。
──────
あとがき
お久しぶりです!リアルが忙しくてなかなか執筆できていませんでしたすいません。ここいらでもう一度頑張って執筆していこうと思います!感想評価フォローなんでも励みになります。どこが面白い!ここはどんな意味だろう!など、どしどしお待ちしております。では、次はテスト回で!
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