第10話 見られた、私の無いものを
「み……見た?」
私がそう聞いた時、彼は見ていないと答えた。
……絶対見られたぁ……かぁ……
本当に見ていないのならまず何をと聞くはずだ。それなのに琉生は即答。私の無い胸にさらに無いを足したこの胸を見られた。
てか……私立ちすぎだよ……! 普段ノーブラでもこんなに浮き上がらないし! 今日限ってなんでよ……!
「べ、別に……見たなら見たでいいし……」
「いや……見て……ません……」
「本当は?」
「見まし……見えてしまいました」
てか……はぁ……なんで今日つけるの忘れちゃったんだろう……確かに時間なくて急いでメイクして着替えたけど……はぁ、私のバカ。アホ。変態女とか思われたらどうすんのよ……!
「あ、あの、そ、その……誘ってるとか、そういう訳じゃない……! から!」
胸を両手で隠しながらベッドから立ち上がり琉生に背を向けた。恥ずかしすぎて顔も見せられない。かぁ……パンツは履いてるよね……流石に……
「わ、分かってるよ! い、1回家戻る? そ、それとも……姉ちゃんの借りる?」
「借りるなんてよく言えるわね。琉生もそうなったら気まづいし、樹菜ちゃんにまた色々聞かれるわよ」
やばい……琉生の匂い……
「ま、まぁ……そうか。じゃ、じゃあ1回忘れ物したからとか言っとくから……」
「……ダメ?」
「……?」
はぁ……! 何言ってるの私! 無意識に変なこと言ってる……! なんか私の中の変なプライドがぁ……!!
「こ、このままじゃダメなのかって……き、聞いてるのよ……」
「は、はぁ!?」
そりゃそうなるよ! ダメに決まってるじゃん! はぁ……何してるんだろう私……誘ってるわけじゃないとか言ってるくせにこれじゃあ……誘ってるも同然だよ……
「だ、ダメじゃない……けど……」
動揺する琉生を見て私は思った。私はまだ彼のことが好きなのかどうかを。1度振られ、私自身も友達に戻ったつもりでいた。でも……でも。いつも頭の片隅には琉生がいる。声が聞こえる。匂いを思い出す。
今だって、恥ずかしいだけで本音は見られても全然嫌じゃないし、むしろそんな関係性にだって憧れだってあってしまう。
でも、何度でも言う。私は振られたんだ。負けたんだ。誰かは分からない。その誰かはいないかもしれない。でも、振られたんだ。なのに……なのに私が彼にまだ好意を持っていい理由って何? 友達じゃダメなの? 好きじゃない人からの好意ほど嫌なものは無いのに……!
「花蓮は……それでいいのかよ」
「べ、別に……いいよ?」
「俺がチラチラ見てるかもしれないのに?」
「う、うん」
「ほ、他の奴らに言いふらしたりするかもしれないのに?」
「琉生はそんな友達、龍くらいしかいないし……そんな事しないって信じてるし」
「俺が今……襲うかも……しれないのに……?」
「あ、ちょ、いや……そ、それは……」
琉生からしたらいつも通りの冗談なのかもしれないこの言葉に過剰反応してしまう私。なんならいつも私がしているようなからかい方。
「あー! 別に全部しねぇーよ!! 花蓮が良いって言うなら別にもうそれでいいけど……次からはちゃんと着てこいよ! こっちもこっちで……大変だから……」
「ちょ、琉生声でかい!」
私は反射的に振り返り琉生の口を手で塞ぐ。
「ちょっと琉生〜喧嘩でもしてるの〜? 大きい声はなるべく出さないでね〜」
「よかった……内容は聞こえてないっぽい」
私が安心すると、琉生は私のせいで話せないからか両手で必死に謝罪のポーズを作りあげていた。
それを見て咄嗟に塞いでいた手を離す。
「ご、ごめん。ちょっと強すぎたかも」
「あ、いや、大丈夫。こっちこそすまん声でかかった」
「……! い、いいわよ」
「何必死になって隠してんだ〜?」
いつもなら私が攻めだ。なのになんだろう。今日は……
「う、うるさいわね!」
「別に大丈夫なんだろ? てか、そんなに隠すもんあるのか……ぐふっ!」
「これ以上言ったら琉生の乳首捻り取るわよ!」
「そ、そんな事怖いから言うなよ! てか……花蓮ほど立ってねぇし……ぐはぁ!!」
「だから〜琉生〜静かに〜」
「「ごめんなさい!」」
琉生の変な冗談にムキになっちゃった。恥ずかしい……もう最近恥ずかしがってばっかじゃない?
……でも、嫌な気はしないかな。やっぱり私……琉生の事。
しょうもない言い争いをして、私と琉生のテスト勉強がやっと始まった。
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