第9話 決断しなければいけない時もある

 考えろ高嶺琉生。今、俺が取るべき方はどっちだ? 先に連絡をくれた花蓮か? それとも恋人の咲さんか?


 ……分からない! 俺には決められない! やっぱり先に連絡くれた花蓮かな……いや、でも……咲さんになんて言えばいいんだ? 恋人を差し置いて幼馴染を取っていいのか?


 ……とりあえず花蓮の要件を聞いてみよう。花蓮だったらいくらでも後出しで断ることもできるしな。



 るい:いきなり空いてるかなんて聞いて何する気だ?



 俺が返信をすると想像の5倍、花蓮から早く返信が帰ってくる。



 かれん:いや、普通に理系科目教えて欲しくて。琉生ん家で教えてもらおうかなーって。無理?



 まぁ何となく分かってはいたけど……どうしよう。聞いたところでどうしようだよこれ!


 普通はね? 普通は恋人を取ると思うよ? でも……違うんだよ! 全然分かってないよみんなは!!


 ……まだ好きなのかな。俺。



 るい:いいよ。お母さんに言っとく



 ごめんなさい今回だけは……許してください咲さん!! 何でもしますから……!!



 かれん:おっけーいありがと。また連絡する



 この返信と共に変なピーマンのキャラが笑ってるスタンプが送られてくる。俺はそのスタンプに対してうさぎのスタンプを送り付けた。


 とりあえず咲さんに申し訳ないから他の日提案してみるか……


 俺は咲さんとのトークを開き、文面を考えた。とりあえずは……空いてないってことを伝えて要件を聞くか。



 るい:ごめん。ちょっと予定入ってて。何する予定だった?



 咲さんも案の定、爆速で返信が来る。



 都竹咲:いや、ちょっと数学教えて欲しくて一緒に勉強出来ないかなぁって。でも、空いてないなら大丈夫!ごめんねいきなり



 うわぁ……まじで申し訳ねぇ。数学だったら確か……


「なぁ龍。数学何日目だっけ」


「3」


「あざす」


 だったら1日目と2日目は午前中に終わるし放課後暇だな。よし、聞いてみるか。



 るい:咲さんが良ければ1日目か2日目の放課後なら全然空いてるけど、良かったら一緒に勉強しない?


 都竹咲:1日目は友達と予定があるから2日目なら! 一緒に勉強したい!


 るい:じゃあ、2日目空けとくね



 そう返事をした後、俺はクマのキャラクターの背景によろしくと書かれたスタンプを送った。すると数秒後に咲さんからまた違ったクマのキャラクターのスタンプが送られてきた。


 咲さんって初めの印象より何倍も女の子って感じで可愛いなぁ、と最近思う。もっと冷酷でサバサバしている感じだと思ったけどしっかり女の子だ。なんなら花蓮の方が冷酷。冷たい。痛いことしてくる。とりあえず、咲さんに日曜日の事詮索されなくて良かった。


 ……そろそろ咲さんとどっかデート行きてぇなぁ。


 そんな事も思うようになってきていた。一度、たった一度一緒に帰っただけなのに。完全に何かを掴まれた。高嶺琉生の何かを。


 まぁ、これがきっと正しいよな。花蓮にばっか執着してられっか。もう付き合えないだろうって思っただろ。俺には咲さんがいる。自慢の彼女だ。これ以上望んでどうする。


 ……日曜日で最後にしよう。うん。うんうん。


 こうして、空きすぎている日曜日の予定とテスト2日目の放課後の予定が決まったのであった。


 ──────


「あらかれんちゃん、いらっしゃい」


「琉生ママお久しぶりです。お邪魔します」


「飲み物持ってくるから部屋で待ってて」


「了解了解ー」


 玄関から1番近くの扉を開くと俺の部屋があり、廊下を抜けるとリビングやキッチンがある。先に花蓮は俺の部屋に入り、俺はキッチンにコップと飲み物を取りに行った。


「え! れーちゃんきてるの!?」


「来てるけど静かにしてくれ姉ちゃんは」


 リビングのソファの上で薄着でくつろいでいるのは、姉の高嶺樹菜たかねじゅな。大学2年生で花蓮とは結構仲が良く、連絡先も交換しているほどだ。よく姉ちゃんに言うぞと脅される。


「やっぱ琉生にはれーちゃんしか居ないもんなぁ。お似合いだよ?」


 俺は一瞬ビクっ、としてしまう。


「ん? どした?」


「な、なんでもないから。うん」


 タイムリーすぎる。花蓮の話も恋人の話も。俺はまだ何にも家族には言っちゃいない。てか言うタイミングを逃した。ここまで来たら……もう言えない。


 俺は急いでキッチンに向かい、トレイにお茶の入ったピッチャーとコップをふたつ置き、リビングを出た。


 ふぅ……怖い怖い。家族ってなんかこう、勘が鋭いよな。


 俺は今はお母さんと姉と3人で暮らしている。父は俺が中学一年生の時に病気で亡くなってしまった。初めは寂しかったけど受験が終わったくらいからやっと慣れてきた。慣れてくるのも良くないかもしれないけど、お父さんならきっと早く慣れろと言ってくれるだろう。


 花蓮も確か父がいない。小さい頃に離婚してしまったらしい。そんな似た者同士仲良くなれたって思ったりもしたが、俺は小学校6年間ちゃんと父がいた。だから、そうでも無いらしい。


「あ、ありがと。私こっちのコップね」


 そう言って薄いピンクのグラスを指さした花蓮は、もう既に俺のベッドで横になっていた。


「おいおい、勉強しに来たんだろ?」


「そうよ? なんか文句あるの?」


「文句は無いけど……」


 俺が机に置いた机にトレイを置いた時だ。ふと、寝っ転がる花蓮を見た。薄手の白いパーカーに中学の時の長ズボンのジャージを来ていた花蓮。いつも通りだ。去年も一昨年も、うちに来る時はいつもこんな感じの服装だった。


パーカーのフードをかぶり、俺のベッドで横になる彼女。


 でも、なんでだろう。本当になんでだろう。……直視できない。


「ん? どうかした?」


「べ、別に……どうもしてない」


「あ、そう……!」


 驚いた表情をする彼女。全く何があったんだよ。こっちはいろいろと大変だって言うのに……!?

 その異変に。俺は完全に気がついてしまった。彼女のその恥ずかしそうな表情のおかげで。


 ぽっこりと浮いた2つの点。その居場所はまさに、彼女の胸にある。

 咄嗟に両手で隠す花蓮。見なかった振りをする俺。


「み……見た?」


 頬を赤らめ聞いてくる彼女に俺は「見ていない」と嘘をつく。


 俺はそんなノーブラな花蓮が恥ずかしそうに胸を抑える姿を見て、必死に何かを耐えることで精一杯だった。


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