第5話 カップルはまだまだ歩く

「琉生君は恋人に求める好きなタイプとかってあるの?」


「うーん……特に考えたことは無いけどお互い気を使わない関係? の方がいいかなぁとは思う」


「え、えっと……じゃあ、好きな髪型とか……ある?」


「髪型かぁ……」


 学校の最寄り駅から歩き出した俺と咲さんはたわいない会話を繰り広げていた。


「昔っから言ってるけどハーフアップが好きなんだよね。理由は分からないけど」


「ハーフアップって……私くらいの髪でも出来ますかね……」


 そう言って不安そうに髪の毛をいじり始める咲さん。


「一応ロングでもハーフアップのアレンジはあるみたいだけど……そこまで俺に合わせて欲しいとかはないし、準備も大変だろうから……気にしなくていいよ!」


「う、うん……」


 どこか悔しげな表情を浮かべる咲さん。なかなかこっちを見てくれないので俺は咲さんの顔をのぞき込むようにし「咲さん?」と、声をかけた。すると「あ、わ!」と、驚き飛び跳ねた。


「なんか浮かない表情だけど……どうかした?」


「べ、別に……まぁ……あはは……」


 笑って誤魔化す彼女を見て考えた。うん。分からない。人の気持ちってのはやっぱり言ってもらわなきゃ分からないよなぁ。花蓮も顔みただけで不機嫌とは分かるけどその理由は全く分からない。女の子っていうのはそういう生き物なのか。


「ま、なんかあったら言ってね。一応……付き合ってるんだし」


 俺が照れくさそうにそういうと、案外あっさりと咲さんは話をしてくれた。


「私心配なの。ずっと空回りしちゃうんじゃないかーって」


「ん?」


「琉生君はきっとまだ私の事好きになってくれてないし、それもちゃんと理解してるし、あ、でも、悪いなんてことも思ってないよ。でも、私自身の魅力なんて分からないし、きっと琉生君に刺さるようなことも……」


「咲さん」


「ひゃ、ひゃい!」


 反射的に名前を呼んでしまう。沈んだ彼女のその名前を。


「咲さんは魅力的な人だよ。ほら、もう駅に着いた。さっき歩き始めたばっかりなのに」


「本当……だ」


「だから咲さんはそんなに心配しなくていいよ。俺は咲さんにありのままでいて欲しいかな」


 これは本心だ。今日一日をふりかえって、俺は都竹咲という人物の魅力に引き込まれてしまった。好きになったかどうかは分からない。でも、明らかに俺の彼女であった。


「俺の方こそ咲さんに幻滅されないように頑張らなくちゃな」


「そ、そんな! 幻滅なんてしませんよ!」


「敬語!」


「あ、幻滅なんてしないよ!」


「いちいち別に言い直さなくていいんだよ」


「……あははは!」


 これがカップルかぁ……案外楽しいかも……


 時間は18時を回ろうとしている。空がオレンジがかり、もうすぐ日が暮れそうだ。


「じゃあ……さすがに今日はもう帰るね」


「うん。そうだな。また明日」


 俺が手を振る。それに答えるように歩きながら後ろを向き手を振る彼女。


 踏切の音をバックに俺は彼女を見届けた。


「……よし。帰るか」


 俺は家に向かって歩き出した。でもなんだろうこの気持ちは。このやるせない気持ち。


 あぁ……楽しかったなぁ……一緒に帰るの……


 花蓮と登下校する時には全く感じたことのなかったこの気持ち。もしかしてこれが……恋なのか!? 本当の好きってこう言う事なのか!?


「あ、琉生じゃん」


「あえ?」


 頭の中で独り言をブツブツ呟いているの後ろから花蓮が登場したのだ。ちょっと待ってくれ……情緒が持たないって……


「こんな時間に何してんのよ」


「あ、い、いやぁ……ちょっとね……あ、そうそう寝ちゃっててさ教室で!」


 苦しすぎる。この言い訳は苦しすぎる。助けてくれ誰か! 龍でも香澄でもいいから!


「……あらそう。バカなのね」


「バカってなんだよ!」


「だってバカでしょ! ……あははは! 何よその顔」


「うわ! 今顔もバカにしたな?」


「もちろんしたわ」


「このやろぉ……!」


 走り出す花蓮の背中を俺も走って追いかけた。


 本当の恋心とは。好きとは。付き合うとは。告白するとは。俺の気持ちはどれが本当でどれが嘘なのか。全く分からないまま、初めてのカップルっぽいことは終了した。

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