第4話 そう簡単には帰れない
「数学の時、隣で座っていた方と仲良さそうでしたけど……どういったご関係ですか?」
「あ、え、えっと……」
バレていた。完全に俺の存在に気がつかれていた。さぁ、高嶺琉生よ。決断の時だ。どうする高嶺琉生よ……!
考えろ考えろ……いちばん良い方向に導ける返事はなんだ? 流石に告白されたことは言った方がいいのか? いや……それはまずい。そんなのが花蓮に知れ渡ったら……あぁ、ゾッとする。
とりあえず今言えることは……
「お、幼馴染だよ。花蓮って言うんだけど、小学生の時に俺の家の近くに引っ越してきて……そ、それから仲良くしてくれてるんだ」
俺の目は泳いでないだろうか。変な顔になっていないだろうか。冷や汗はバレてないだろうか。変な緊張が走る。
「……」
何か言ってくれよ……! 俺の心臓が持たねぇ! 身体中に脈打つ感覚がわかるくらいに俺の鼓動は強く打っていた。
「つ……都竹さん?」
「幼馴染……ですか」
「そ、そう。幼馴染……」
何その反応! もしかして……幼馴染ダメ!? 幼馴染アンチ!? どうしようどうしよう……
「そうだったんですね! なんかすいません勘違いしてました」
「え、あ、はぁ?」
ふぅ……何とかなったっぽい。良かったぁ……。流石にこれからはあんまり一緒にいるところ見られたらまずいかもな。もう少し考えないと。
「ところでその花蓮さん? って方は琉生君が私とお付き合いしていること知っているんですか?」
これまた難しい質問だ。もう……分からないよ正解が!! 言ってなかったら言ってなかったらでなんで隠すの! とか言われそうだし……でも、嘘ついて知ってるよーなんて言って花蓮にバレでもしたら……はぁ。さすがに嘘はつけないよな。
「うんん、言ってないから知らないはずだよ。まだ誰にも言ってない」
「そうなんですね……」
また沈黙……やめてくれこの変な間作るの……
「なんか秘密の恋愛。芸能人同士の恋愛みたいでワクワクしますね!」
「は、はぁ?」
「なんかこう言うの初めてだからなんでもワクワクするんです。まぁ、それも琉生君だからってのもあると思うんですけどね」
彼女は少し照れくさそうにしながら、ずっと見ていてくれた目を逸らして信号の方を向いた。
「確かに、秘密ってだけで少しワクワクするのは分かるかも。でも、芸能人同士じゃなくて、芸能人と一般人男性Rとかが正しいんじゃないのか?」
「……ふふふ。何言ってるんですか? あ、青になりましたよ行きましょ!」
彼女は俺の発言を少し小馬鹿にしたように笑い、横断歩道を歩き始めた。その後ろを「ちょ、待ってよ!」と言いながら俺は追いかける。
あぁ、助けてくれ……都竹さんって人は……なんて魅力的な人なんだよぉ……
俺の心はもう何が何だか分からず、機能停止せざるおえなかった。
──────
「次の電車で行く?」
そんなこんなで駅にたどり着いた俺と都竹さんは、改札の前で電車が来るまで少し立ち話をしていた。
「え、えっと……こ、コンビニ寄ってもいいですか?」
「良いけど……何か欲しいものでもあるの?」
「え、あ、ちょ、ちょっと喉乾いちゃって」
「じゃあそこのコンビニ行こうか」
「は、はい!」
都竹さんの要望に答え、改札を出てすぐのところにあるコンビニへと入った。
「いらっしゃいませ〜」
「……」
「ありがとうございました〜」
「都竹……さん?」
「……はい」
「結局何も買わなかったけど……良かったの?」
「あ、あはは……ちょっと気分のものがなくて……」
なんだか不思議な人だなと思ったが、コンビニを出るのと同じくらいに踏切の閉まる音が聞こえてきた。
「あ、これ上り線の方なんじゃないかな。改札まで送っていくよ」
そう言って駅に向かって歩き出そうとしたその時だった。
「ま、待って……!」
「……!」
都竹さんが後ろから俺の手をギュッと握ってきたのだ。想像よりも小さくスベスベな彼女の手を感じる。男たるものここで動揺なんてしてはいけない。しっかりここは男らしく……
「ど、とうひたの?」
噛んだ! めっちゃ噛んだ! 動揺しまくりじゃねぇかよ! でも仕方ねぇよ! 小学校の時、花蓮の手触った以来、血の繋がってない女の人の手なんて触ったことねぇんだから!!!
振り向きながら噛んでしまった俺は、恥ずかしそうな顔をしながら都竹さんと目が合ってしまった。そして、目の前の都竹さんも恥ずかしそうな顔をしている。なんだよこの状況……恥ずかしすぎるって……
「もう一本……」
「ん?」
「もう一本次の電車でも……いいですか?」
一本電車を見送り、次のにする。これが意味していることはまだ帰らないという事だ。いや、帰りたくないという事だろう。
やっぱり都竹さん。顔は可愛い。可愛すぎる。そして今日改めて発見したこの性格。これは俺じゃなかったらイチコロ案件だぞ……
でもまぁ……断る理由もない。
「いいよ。じゃあ改札前にあるベンチに座ろうか」
「うん……あ、はい!」
彼女が言い直しながら返事をした後、俺たちはベンチに向かおうとした。その時だ。2人の視線が下に向かう。そう。繋がれている右手だ。
「「……」」
お互い反射的に手を離した。
「ご、ごめんなさい! なんか……つい……」
「い、いや、俺は全然全然。おっけーおっけーって感じだから……い、行こうか」
お互い目も合わせられず、歩き方も忘れそうになるくらいガチガチな身体を動かし、ベンチへと座った。
「本当にごめんなさい!」
「なんでそんなに謝るの!」
「いや、だってこう言うのはちゃんともっと話しあってからじゃないと……」
俺は多分だが気がついた事がある。俺が恋愛経験ゼロなように、都竹さんもきっとゼロだということだ。さっきの行動と今の言動で少し真実へと繋がった気がする。
「都竹さんって……今までお付き合いした人とかいるの?」
「ま、まぁ一応中学生の時に1人だけ……」
外した! いたのか1人! ちくしょう負けた!
「そうだったんだ。その人とは……まぁ、あんまり聞かない方がいいかごめん」
「あ、いえ、大丈夫です。でもまぁ……あの時の私は初めて告白されてとりあえずOKしちゃったんです。それがとことん酷い男で……決めたんです! これからは私が好きになった人に私が告白して付き合おうって」
都竹さんは空を見ながら両手を握りしめグッ、とガッツポーズをした。
「そうなのかぁ。でもやっぱり都竹さんモテそうだけど……」
「あ、言おうと思ってたんですけど……」
「ん?」
「その……あの……下……」
「下……?」
「下の名前で……せめて咲さんって……呼んでくれませんか?」
またモジモジとさっきのガッツポーズとは裏腹に、恥ずかしそうな表情を浮かべてそう伝えてくる都竹さん。
俺女の子のこと下のの名前で呼ぶの苦手なんだよなぁ……でも付き合ってるしそれくらいは……よし。咲さん。咲さん咲さん!
「分かった。慣れるまで時間かかると思うけど……咲さん。これからそう呼ぶようにするよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「じゃあ、俺からもひとついいかな?」
「はい、いいですけど……」
「その敬語。同い年なんだしもっと気軽に接して欲しいなーって話です」
「……琉生君が言うのなら……頑張ります、あ、頑張る……ね?」
「……あははは! 都竹さんってあんまりタメ口使わないんでしょ?」
「べ、別にいいじゃないですか……って今都竹さんって言った!」
カンカンカンカン
「「あ」」
踏切の鳴る音。その音に俺と咲さんの会話は遮断される。
「電車……」
「来ちゃったな」
「約束は約束ですね……よし。琉生君立って。行こ」
「ちょ、ま!」
咲さんはカバンを持ち、サッ、立ち上がった。そして1人で改札まで歩いていく。
なんだろうこの感じ。会おうと思えばいつでも会える距離にいるのに。同じ学校に通っているのに。隣のクラスにいるのに。この気持ちは……
「待って!」
俺は改札を抜けるためにカバンからICカードを取り出している咲さんの所まで走った。
「琉生君……じゃあ……また明日……」
「1駅! ……歩かない? 今日帰っても暇でさ。咲さんが時間あって疲れてないなら……」
「……うん!」
俺は花蓮が好きだ。でも、違う人と付き合っている。そして今日。心のどこかで生まれてしまった物がひとつ。
それは───俺が都竹咲を好きになる可能性だ。
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