第3話 約束の下校の時間

「ちょっと話あるんだけど」


「は、話……?」


 え? 俺なんか悪いことした? それとも……バレた!?!?


「……何焦ってんのよ」


「痛い痛い!」


 小さい声でそう呟いた瞬間、俺は二の腕をとてつもないパワーでつままれた。


「今日香澄と渋谷行くから今日は一緒に帰れない。それだけだから」


「あ、あぁ……おっけー……」


 あぁ……ビビったぁ……。ビビるのもおかしいけど……全部俺が悪いんだけど……とりあえず今日は切り抜けれそうだ。


 机の中を整理していると、もう既に教室には俺しか残っていなかった。案外みんな帰るの早いんだなぁ。


 とりあえず、俺がこの状況で取れる行動は恐らく3つだ。1つ目は都竹さんとの関係を花蓮に報告しつつ、交際は続ける。2つ目は都竹さんにはハッキリとしっかりと気持ちを伝え、お別れしてもらい、俺が花蓮に告白をする。最後の3つ目は、都竹さんとの関係を秘密にし続け交際を続ける。


 この中で俺の今の心情でいちばん最適なものは何か。俺が1番望んでるものはなんだ? 花蓮と付き合うことか? それとも都竹さんと付き合い続けることなのか?


 ……あぁ、最低だ。俺って人間は最低で最悪人間だよコンチキショー……


 でも待てよ? 俺は今正直何に迷っているのか分からない状況だ。多分花蓮のことは好きなんだと思う。でも、都竹さんと付き合っている。この時点ではまだ悪いことはしていない。先に告白してくれたのは都竹さんだしな。

 それから、まだこの関係もバレていない。そして俺は今日下校デートを控えている。


 まぁ……変に考えすぎんのも良くねぇか。正直、もう花蓮と付き合える線はないと思ってる。忘れろとか言われちゃったしな。今の俺の彼女は都竹さんだ。この恋が失敗しちゃったらまた花蓮を惚れさせればいいさ……あぁ……眠……




「琉生ー! 遅いよー! 早く来てー!」


「待てよ花蓮ー! 前見なきゃ怪我するぞー!」


 大きな浜辺で2人っきり。無邪気に走り回って遊んでいる。


「……捕まえた!」


「きゃー!」


 俺は後ろから花蓮に飛びついた。そして2人で砂浜に倒れ込む。うつ伏せの状態で倒れた花蓮を仰向けの状態へと転がした。


「あ、あれ……? 花蓮じゃなくて……あれ……? 都竹……さん……? はっ!!」


「わっ!」


 俺が目を覚ますと、目の前には都竹さんの顔があった。目の前って言ってもめちゃくちゃ目の前。本当に10cmくらい目の前だ。

 昼休みの龍と同じように椅子を半回転させ、都竹さんは俺の机に俺と点対称のように机に腕で枕を作り、頭を乗っけていた。


「そ、そんなに驚かない下さいよ。私もびっくりしちゃったじゃないですか」


「ごめんごめん……あ、てか連絡なしに寝ちゃってた。LINEも気付かず無視してた……申し訳ない!」


「いや、全然大丈夫ですよ。教室に荷物を置きに来たついでに見つけられたんで」


 そう言ってニコっ、と可愛い笑顔を見せてくれた。うわぁ……待って……寝起きにこれは可愛いとかの次元じゃねぇ……さっき見てた夢も全部スっとんだわ……どんな夢見てたんだっけ……


「それよりお疲れですか? すいません待たせちゃって」


「ううん、それは全然大丈夫だよ。昨日なかなか寝付けなくてさ」


「そうだったんですね……まぁ、今日はゆっくり寝てください。じゃあ……帰りましょうか?」


「うん。帰ろう」


 こうして、俺と都竹さんは下駄箱へと向かい、靴に履き替え、学校を出た。


「そういえば琉生君はお家どこら辺なんですか?」


「あぁ、えっと、学校の最寄り駅の隣の駅だよ。でも歩いて20分くらいだから徒歩通学してる。都竹さんは?」


「私は上り線の終点の駅です。私も意外と近いんですよ学校」


「あはは、そうだね。じゃあ、方面は一緒だ」


「琉生君もこっち方面なんですね! なんか嬉しいです!」


「そ、そうか?」


「はい!」


 恐らく、成立ほやほやのカップルはこのような会話が当たり前なのだろう。しかし、男、高嶺琉生は恋愛経験ゼロなのである。そして、初めての相手がこの学校で1番の美女。これは夢か?


 なんだかんだ会話は弾み、駅までの距離も近付いてきた。学校から駅までは10分と意外とかかるが、あまり時間を感じずに最後の横断歩道を迎えた。そして、赤信号で止まったその時だ。


「琉生君。ひとつ聞きたいことがあるんですけど……いいですか?」


「あ、うん……何かな」


 さっきとは打って変わって少し真剣な表情になる都竹さん。

 おいおい……またこのパターンですか? 俺何か悪いことでも……


「数学の時、隣で座っていた方と仲良さそうでしたけど……どういったご関係ですか?」


 考えうる質問の中でいちばんのハズレを俺はここで引いてしまった。

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