第2話 告白されても振っても日常はやってくる
「じゃ、パン買ってくるわ! 琉生はいつも通り弁当持ってんだよな?」
「持ってるよ。早く行かないとまた無くなっちゃうぞー」
時は4時間目が終わり昼休み。俺は未だに都竹さんからのLINEに既読をつけていない。
流石にそろそろ返信しないとまずいよなぁ……
スマホを取りだし、もう一度LINEを開く。
よし。とりあえず返信はしよう。考えるのはその後だ。花蓮の事はとりあえず忘れよう。都竹さんに失礼だ。
俺は都竹さんとのトークを開き、返信をした。
るい:いいよ。待ち合わせ場所どーしよっか
何の変哲もない会話のはずだ。でもなんだろうこの感じ……初めての感じ……
俺の学年はA〜Fの6クラスだ。その中のE組に俺は所属しており、都竹さんは隣のF組に所属している。違うクラスとはいえ、なんだかんだ授業では2クラスずつの展開授業などが多くある為、EとFは意外と交流は多い。
ピロピロ
都竹さんからだ……あんなに待たせたのにすぐ返してくれるなんて……ごめんなさい!
都竹咲:ありがとうございます! でも、ひとつ言い忘れてたんですけど、生徒会の仕事が5時まであって、それでも大丈夫ですか?
俺は直ぐに既読を付け、返信をする。
るい:全然大丈夫だよ。図書室かどこかで時間潰してるから終わったら連絡して欲しい
都竹咲:はい! 了解しました!
この返信と共に、なんかよくわからないうさぎのキャラクターが親指を立ててグッドマークを作っているスタンプが送られてきた。
ふふふ、なんだよこのキャラ。俺もなんか返すか。
数少ないスタンプの中から都竹さんとは違ううさぎのキャラクターを見つけ出し、俺は大きく手で丸を作ったスタンプを送った。
「いやぁ〜危なかった〜。ギリギリ焼きそばパン買えた……って、なにおまえニヤニヤしてんだよ」
「ひゃ! り、龍か。びっくりさせんなよ」
「いや、びっくりも何も弁当も出さねぇでスマホばっか見てるの珍しいなお前」
「あ、あはは……ちょっとね」
「ま、いいや。食おうぜ飯」
「お、おう……」
龍は椅子を半回転させ、俺と向かい合うようにして座り、買ってきたパンと紙パックのいちごミルクを俺の机に乗せた。俺もカバンからお母さん特製の弁当を取りだし、机に置いた。
「いただきまーす!」
「いただきます」
それから俺と龍はたわいもない会話をしながらご飯を食べ進めて行った。
「次数学だっけ? うわマジで数学嫌いなんだよなぁ」
「でも龍のクラスは小テストないからいいほうでしょ? こっちは毎週小テストだよ」
「そりゃそうだろ。なんて言ったってこっちは最底辺クラスだからな」
そう言って龍はニッコリ笑う。
うちの学校の数学は2つのクラスを3つのクラスに分けて行う。まぁ、なんて言うか分かりやすく言えば、E組の40人とF組の40人を足して、数学できるクラス、普通にできるクラス、できないクラス、みたいに分けて行うってことだ。
その中で龍は1番下のクラスに位置しており、俺と花蓮は1番上のクラスに位置している。香澄は確か真ん中のクラスだったはずだ。
花蓮を追いかけて高校受験をしたおかげで、勉強をするという習慣が身についた。でも、正直もう一度あの時みたいに受験勉強しろと言われたら間違いなく無理だ。だから俺は今指定校推薦を狙って日々努力している。
キーンコーンカーンコーン
「やべ、予鈴なっちまった。じゃ、また後でな〜」
「あいよ。んじゃ」
階が変わる教室移動の龍は筆箱と数学の教科書を持ち、足早に教室を出ていった。
その姿を見送り、俺も机の中から教材を取り出す。
「琉生、早く行こ」
「あ、うん。ちょっと待って」
既に準備を終えた花蓮が俺を急かしてくる。いつも通りだ。本当にいつも通りだ。でも何故だろう。すごく怒ってるように聞こえる……
いつも以上に素早く準備を終わらせた俺は、1番上のクラスの授業が行われるF組へと花蓮と向かった。
うちのクラスの授業の席は基本自由だ。いつも後ろの方で花蓮と隣で座っている。今日も花蓮といつも座っている席に向かおうとした時だ。
……都竹さんだ。
俺たちが座ろうとしている2つほど隣りの席で準備をしている都竹さんを発見した。確か都竹さんは同じクラスでは無かったはずだ。だとすれば今から教室移動をする。
そう思った瞬間、都竹さんはこちらに向かって、いや、ドアに向かって歩き出した。
「ちょっと琉生。何ボケっと立ってるの。聞きたいとこあるから早く来て」
「あ、ごめんごめん。どこだ?」
女の子2人で隣の席に座ろうなんて所見られたら都竹さんに怒られてしまうかもしれない。
こんなこと考える俺も相当おかしいのは重々承知だ。でも、俺に彼女の気持ちを簡単に踏みにじることは出来そうになかった。
ここはそーっとバレないように……顔を下げて……
俺が席に着くのと同じくらいに俺の後ろを都竹さんが通る。
……大丈夫か……な?
とりあえず何事もなくその場は乗り切った。
はぁ……変に気張ってると体力持ってかれるなぁ。
「……琉生大丈夫? 体調悪そうだけど……」
「あ、あはは……全然大丈夫……。多分寝不足なだけだから……」
「あらそう。じゃここの問題教えて欲しいんだけど」
「かしこまりました花蓮さん……」
──────
5時間目も終わり6時間目。LHRの時間だ。予定通り、体育祭実行委員決めが始まった。
「はい! 俺やりたいです!」
「はい! 私やりたいです!」
元気よく手を挙げた2人。まぁ言わなくてもわかるだろう。龍と香澄だ。龍はともかく、香澄は本当に花蓮に従順だ。なんでそこまでなのか未だに分からない。
「じゃあ……高橋と鈴木で決定でいいか? 他やりたいやつ……はいなさそうだな」
こうして2年E組の体育祭実行委員は龍と香澄に決定した。
「こっからは2人を中心に代表競技の代表者決めてもらうからしっかり協力しろよー。先生はちょっと授業の準備してくるからあとは頼んだぞ。あ、今日は帰りのHR無しでいいからな。終わり次第下校していいぞ」
そう言って体育科の担任が職員室へと向かっていった。
「はい! じゃあ代表者決めていきまーす!」
「代表競技は全部で3つあって、1つ目は※色別リレー男女2人ずつ、2つ目は100m走男女2人ずつ、3つ目はパン食い借り物競争男女1人ずつ、って感じなんだけど……」
※全学年を縦で色分けし、色対抗で全学年まとめて行うリレーの事。A組は赤、B組は青、みたいな感じ!
「やっぱりリレーと100m走は足の早い順がいいよなぁ」
「ってなると、この記録表見る感じ男子は……」
げっ……やめてくれその選び方……
「1番と2番は龍と琉生だね。2人はリレー代表で大丈夫?」
「俺は全然OKだけど……琉生、お前は……」
俺は断ろうとした。周りの目線が怖かった。でも、またあの時見たいに。中学の時のあの時みたいになる方がもっと怖かった。
「申し訳ないけど……」
でも、その時だった。
「やっぱ琉生は借り物競争がいいんじゃねぇのか!? 足速い奴がパン食って借り物競争してたらバカ面白いだろ!」
教室に微かな笑いが起きる。確か龍にはチョロっとこのこと話してたっけな。ありがとう。あぁ……泣きそう……
そんなこんなで代表者も決まり、6時間目が終了した。ちなみに花蓮は100m走の、香澄は色別リレーの代表になったぞ。
「龍……ありがとな」
席に戻ってきた龍にお礼を伝える。
「なーに友達の嫌なことはさせねぇよ。あ、でもよ……全員リレーのアンカーは任せてもいいか? 借り物競争以外の代表者アンカー出来なくてよ」
「……分かった。それくらいはやるよ。ちゃんと運動しとかなきゃな」
「ナイス! マジで助かる!」
俺と龍はパチンっ、とハイタッチをした。
このクラスなら、龍がいるこのクラスなら。きっと大丈夫。
「そしたら俺部活行ってくるわ! じゃ、また明日なー」
「うん。じゃーな」
荷物を持って教室を走って出ていく龍を見送る。
「ねぇー、琉生?」
その時、後ろから俺を呼ぶ声がした。花蓮だ。
「どーした?」
さっきまで忘れていた不安が一気にぶり返す。やっべぇ……まだ何にも解決しちゃいねぇ……
恐る恐る振り返る。そして花蓮の顔を伺う。なんとも言えない表情。どういう表情なんだよこれは……
「ちょっと話あるんだけど」
「は、話……?」
え? 俺なんか悪いことした? それとも……バレた!?!?
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