第39話 ロビーはそういうところがある
(ビカン先生の話は小難しいと言えば、いいのかしら?)
ビカンの勿体付けた解説を聞いたアマーリエの感想はその程度のものだった。
彼が何を言っているのか、全く分からないほどに難しいのではない。
分かってはいてもどうすれば、いいのかが分からない。
油断をすれば、眠くなる。
ただ、それだけの話と受け取っているのだ。
しかし、アマーリエはまだ、耐えている方だった。
あひる部隊と遊んでいる時、元気が有り余っていたサーラはここにきて、限界が訪れている。
既に舟を漕ぎかけており、頭がこっくりと俯く度合いが増えていた。
ほぼ夢の世界の住人になっていると見て、間違いなかった。
偶に「にひぇ」といった妙な声を上げ、気味の悪い笑みを浮かべ、涎を垂らしている。
いわゆる乙女が決して、見せてはいけない顔になっているのだ。
「ダニエル・コラーは遺言代わりにこう言った。『光を闇が……世界が……闇に覆われる……気を付けてください』とね。どういうことか、分かるかね?」
これはいけないとアマーリエは思った。
自分の目の前を短い羽を羽ばたかせたあひるが一羽。
また、一羽と通り過ぎていく幻が見えていた。
とても他人のことを心配している場合ではなかった。
アマーリエの限界も近い。
当然のようにビカンの質問を出来ようはずもない。
彼女は考えれば、考えるほど質である。
難しい本を手にすれば、ものの数分もあれば夢の世界に旅立つことが出来るアマーリエにとって、現在の状況は睡眠欲を刺激して、仕方がないものだった。
「先生。もしかしたら、あれでしょうか?」
誰一人、手も上げなければ、反応もしない中、ロベルトが静かに手を挙げた。
彼の右人差し指は空から、地上を照らしている太陽を指差す。
その動きがやや芝居じみて見えるのはロベルトが元来、演劇好きであることが影響していないとは言えなかった。
ロベルトにはそういうところがあった。
「正解だよ。さすがは第二王子殿下と言うべきかな」
少しばかり口角を上げ、意地の悪そうな笑みを浮かべるビカンの姿は褒めているのか、それとも意地悪を言っているのか。
非常に分かりにくいものがある。
そんなビカンの態度に声をかけられたロベルトもどこか居心地の悪さを感じた。
ややはにかむような笑顔を浮かべ、誤魔化そうとしていた。
「我々もその結論に達したよ。光とはつまり、大地や世界を照らす太陽のことだろう。その光を闇が覆い尽くす。これが何を指しているのか」
「日蝕……」
エヴェリーナを注視するだけで話に集中していないように見えたユリアンの呟きだった。
ユリアンが本を愛し、勉学好きであるのはよく知られていた。
特に得意としているのは歴史学である。
アマーリエはふと思い出した。
「うむ。日蝕だ。過去に何が起きたのか、それも知っているかね?」
「はい」
ユリアンの顔色が見る間に悪くなった。
彼が何を発言するのかと見ている側が心配になるほどの顔色の悪さだった。
(まさか、日蝕のことを考えただけでなったの!?)
嫌な予感が胸を過ぎり、アマーリエは固唾を呑んだ。
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