第40話 何だか、不思議な感じがする
アマーリエは眼前で広がる珍しい光景を前に少しばかりの感動に包まれていた。
伏せていることが多く、介抱される立場にあったエヴェリーナが、今にも吐きそうになっているユリアンを介抱している。
そのような日を迎えられようとは考えてもなかったからだ。
健康を取り戻しつつあり、肉付きも大分よくなってきたエヴェリーナの顔は以前に比べ、ふっくらとしていた。
血の繋がった妹であるアマーリエから見ても可愛いという軒並みの単語しか、出てこない。
ユリアンもそれなりには整った容姿の持ち主だった。
二人の寄り添う姿はまるで一枚の絵画のようでもあった。
サーラは愛らしい雰囲気を纏い、整った顔立ちの持ち主だ。
ポボルスキー家の兄妹は揃って、整っている美形と言っても過言ではない。
(小動物みたいな愛らしさがあるから、あたしが絵の題材にしたいのは断然、サーラだけど!)
アマーリエが心の中で鼻息荒く、密かに毒づいていることに気付く者はいない。
「ふむ。話を続けてもかまわないかね?」
ビカンの声には少しばかりの苛立ちが混じっていた。
話の腰を折られ、癇に障ったからだと思われても仕方がない反応とも言えた。
皆がユリアンに気を取られていたのは事実である。
だが、ビカンの苛立ちのお陰で眠そうになっていた者も目が覚めた。
サーラは既に手遅れだったのか、椅子から落ちないかと見ている者が心配になるほどに頭を左右に振っていたが……。
「直近の日蝕でも大きな災厄が起きている。一国家の存亡から始まった種火が大陸全土を燃やす大火になったのだ。これは歴史学の授業でも習っていることなのだが……」
ビカンはそう言うとアマーリエとサーラを一睨する。
それは決して、気のせいなどではない。
明らかに視線を向けたのだ。
アマーリエには身に覚えがあるらしく、歴史学の授業で寝ていたのがなぜ、バレたのかしら? と呟いたがそれを聞きとがめる者はいない。
ロベルトが「ルアンの町に悪竜が現れた事件ですね」と助け船を出すように発言したことで事なきを得たのだ。
ビカンの目は「補習授業を追加だ」と言っている。
そう捉えられてもおかしくない眼差しだった。
「その通り。ガルグイユという強大にして、狂暴な竜が
ビカンはまた、一呼吸置くかのように言葉を止めた。
その様子にアマーリエはふと気が付いたことがある。
どこか芝居がかった様子に覚えがあると今更のように気が付いたのだ。
その様子がまるで演劇の好きな誰かに似ているではないか、と……。
ロベルト
二人の顔に似ている要素はあまり見受けられない。
髪と瞳の色も全く異なっているだけにアマーリエは何だか、むず痒く不思議な感触を覚えいてた。
「いずこからともなく、強大な存在が出現したのは一度ではない。日蝕とともに大災厄は起こっている。これは推測ではない。事実だ。
アマーリエにとって、難しい話は続いていた。
彼女に理解出来たのは日蝕が起こるたび、何かしらの良くないことが起きている事実だけだった。
日蝕がなぜ起きているのかは未だに解明されていなかった。
自然界で発生する現象には必ず、原理があるはずなのに解明の糸口すら掴めていない。
「一説によれば、上顎が天に届き、下顎は地の底につくという巨大な魔狼が太陽を飲み込むから、起きるのだとされている。だが、私はこの説は古人の考えた壮大な冗談であると考えている。神話の伝説の巨狼が実在したとしてもおかしな話なのだ。飲み込んだのであれば、日蝕が終わるはずがあるまい」
ビカンはそう言うと悪戯っ子のように破顔した。
そして、ふっと真顔に戻ると場の者を震撼させる衝撃的なことを口走るのだった。
「原理は分からん。なぜ、起こるのかも分からん。だが、神話を読み解くと不吉な一文に辿り着くのだよ。『扉開かれし時、彼の者は彼方より現れん。その名は次元竜』とな。そして、日蝕は起こる……それは誰にも止められん」
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