第55話
「母さんー? あれ、かあさーん? いないのかな」
帰宅すると、またしても誰もいなかった。
ここ最近店が繁盛してるからとはいえ、少し出かけすぎではないかと心配になる。
父さんも昔は財布の紐が固かったのに、最近は気が緩んでるのだろうか。
「音無、とりあえずお風呂入る?」
「うん。一緒にはいろ?」
「え、で、でも」
「恥ずかしがることないよね? 昨日あんなに、その、したんだからさ」
照れながらそう話す音無を見ていると、俺はもうムラムラが治らなくなっていく。
もちろん風呂場でそのまましてしまったら、せっかくアレを買った意味がなくなるので我慢だけど。
いや、我慢なんてできるのか?
やっぱり別々に入った方がいい気が。
「あの、やっぱり風呂は」
「先に入って待ってるから。早くきてね」
「あ」
俺の話を聞かずに音無はさっさと風呂場へ行ってしまった。
なんだか楽しそう、というか嬉しそうだった。
俺と風呂に入るのがそんなに楽しみだなんて、なんか嬉しいを通り越して申し訳なくなる。
俺はずっとエッチなことしか考えてないのに。
きっと音無は俺と一緒にいれることを楽しんでくれてるんだろう。
……俺も、我慢しないと。
うん、大丈夫なはずだ。彼女の裸はもう見たわけだし、昨日散々イチャイチャして、このあとだってベッドで好きなだけイチャイチャできるんだから。
風呂では何もしない。
そう決めてから、深呼吸して彼女を追いかけて風呂場へむかった。
◇
「ん……んん、ん」
「んん……」
風呂に入るまではよかった。
湯船で音無の体は隠れていたし、俺も極力彼女の方を見ないようにして風呂に入って、肩まで浸かるとホッと一息、のはずだったが。
音無はすぐに俺に体をすり寄せてきて、そのままキスをしてきた。
そしてずっとキスしている。
少し熱った彼女の唇が俺の脳を蕩けさせる。
俺も目をつぶったまま、ずっとされるがままだ。
「……ふう。ねっ、ここでしたらダメ?」
「あ、いや、ええと、俺も、その、したいけど、でも」
「でも?」
「あ、いや……」
もう、このまま音無に飛びついてしまいそうだ。
でも、昨日みたいに無我夢中にはならないと決めたんだ。
これからずっと音無といるためにも。
俺は目先の欲に流されたらいけないんだ。
「ご、ごめん音無! 俺、ちょっと忘れ物」
風呂を飛び出してそのままタオルを纏って部屋へむかった。
もう、我慢なんてできやしないんだけどせめて。
アレを、持ってこないと。
音無が買ってくれてるはずだから。
買い物袋の中にあるはずだから。
ごめん、ちょっとだけ待ってて。
すぐ、戻るから。
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