第53話
「朝だ……」
窓の外が明るくなった。
俺は朦朧とする意識の中で目を細めながら朝日を見つめていた。
やってしまった。
いや、やってしまったなんて言ったら音無に失礼なのだろうけど、とにかく俺はやり切った。
朝までずっと。
音無をこの手に抱いて、最後まで……。
「ん……あ、おはよう黒崎君」
「う、うん。おはよう」
互いに裸のまま、布団で体を隠しながら目を合わすと音無は照れくさそうに口元を隠しながら「いっぱいしたね」と。
音無が寝た後も一睡もできずに今に至る俺は精魂尽き果ててるはずなのに、音無の仕草にまた少し元気になりかけている。
「と、とりあえず服、きる? もう朝だし」
今日は朝から店の手伝いもあるわけだし、なにより二人とも裸のまま部屋にこもっているわけひはいかない。
母さんたちもさすがに帰ってきてるだろうし。
「……もうしたくない?」
「え?」
「朝だから、したくない?」
「え、ええと……」
「一回したら満足した?」
「そ、そんなことは……」
布団の中で音無が肌を寄せてくる。
眠気と疲労でクタクタだったはずの俺の体が芯から熱くなるのがわかる。
「ねっ? お母さんたちも多分、大丈夫だと思うよ?」
「……うん」
ちらっと時計を見た。
まだ時間はある。
それに、多分時間がなくとも俺は我慢なんてできなかったと思う。
遅刻しようが、寝坊しようが関係ない。
今はただ、目の前の幸せに浸りたい。
あと先なんて考える間も無く俺は自然と音無を抱きしめていた。
◇
「お疲れ様ふたりとも。お昼たべなさい」
昼過ぎになって母さんに言われるまま音無と休憩に入る。
結局朝はもう一回戦してから店におりたのだけど、正直な話でいえば仕事どころではなかった。
昨晩からずっと浸っていた幸福な時間を思い返す度に俺の意識はどこかへ飛んでいて、注文も何回か間違えてしまったのでミスした料理を今から食べることに。
「はあ……」
先にカウンターに行って料理を食べる俺は、母さんと談笑している音無を見ながらため息を吐く。
夢見たいな時間だった。
そして、今日からずっとあんな時間が続くと思うと幸せすぎて少し怖くなる。
自制しないと。
猿みたいに理性を飛ばしてたら、それこそ高校生でパパになってしまう。
仕事が終わったらちゃんと買いに行こう。
音無だって、その方が安心なはずだ。
「お疲れ様。どうしたの? ぼーっとして」
ぼんやりしながら飯を食べていると音無がこっちにきた。
「あ、いや……ええと、仕事終わったらコンビニ行かない?」
「いいけど、アイスでも買うの?」
「ええと、まあ」
こんな真昼間からえっちなことを考えていたなんて思われたくないので適当に返事をする。
とにかく自制する。
そんな決意を固めながら冷めたパスタをすすっていると。
隣でオムライスを食べながら音無がぽそっとつぶやいた。
「今日の夜も、一緒に寝ようね」
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