第52話

「こ、これは……」

 

 薄暗い視界の中で拾い上げた正方形の小さな包みは、実物を見るのは初めてだったが何か知っていた。


 彼女とベッドで過ごす上では欠かせないアレ。

 大切な人と過ごす上でエチケットでもあるアレ。


 俺は、それを手にとって思わず体を起こした。


「黒崎君、どうしたの?」

「え、いや、べ、別に」

「それ、なに?」

「え? いや、これは……」


 なぜこれがここにあるのかはわからない。


 親の使いかけのものとは考えにくいが、親が気を利かせて俺の部屋の枕元に置いた可能性はある。


 しかしそんなことは今は関係ない。 

 とにかくこれがアレだということを隠さないと。


 俺が下心を持っていたと思われかねない。


「こ、これは、その、と、特に必要ないものだよ」

「いらないの?」

「う、うん。いらないかな。そうだ、捨てておかないと」


 俺は誤魔化すようにアレを握りつぶしてゴミ箱に捨てた。


 明日は先に起きて処分しておかないと、なんて思いながら音無を見ると。


 なぜか起き上がった彼女は胸に手を当てて上目遣いで俺を見ていた。


「……黒崎君、そんなに私のこと好きなんだ」


 嬉しそうに、照れくさそうに彼女は言う。


「え? も、もちろん俺は音無のことが好き、だけど」

「うん。ずっと一緒にいてくれる?」

「う、うん。音無がいいなら、俺はそうしたい、かな」

「じゃあ、いいよ?」


 そっと彼女が目を閉じた。

 そして少し顎をあげて唇を俺の方へ向けてくる。


 この流れは……キス、してもいいってこと?


 いや、でも、まだ俺たちは付き合ったばっかりだし。

 いやいや、だけど彼女がここまでしてくれてるのに何もしないのは男らしくないかも。


 俺は頭をフル回転させながら悩んだ。

 しかし、目を閉じて少しずつ俺に近づく彼女に俺も自然と吸い寄せられていく。


 気がつけば。


 俺は音無にキスをしていた。


 初めて、ではないが。

 初めて彼女と気持ちを通じ合わせてキスをした。


 そしてそのまま。

 俺の服をぎゅっと握りしめて俺に体を寄せてから音無と、体が触れ合う。


 暗い部屋の中で、俺は彼女を押し倒すようにベッドに横になる。


 自然と手が彼女の体に伸びていく。


 キスをしたまま、呼吸も忘れ朦朧とする意識の中で。


 ふと、頭をよぎる。


 どうして、ゴミ箱にアレを捨てたんだろう。



 やっと、一つになるんだ。


 慎重な彼のことだから、てっきりアレをつけた方がいいって言われると思ってこっそり買っておいたけど。


 必要なかったみたい。


 嬉しい。


 好き。


 それってつまり、子供ができてもいいってこと、だよね。


 結婚、してもいいってことだよね。


 する。


 すぐ、したい。


 今日、したい。


 だから、このまま。


 大好き、黒崎君。

 

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