第49話

「ええと、アイスアイス」


 家の最寄りのコンビニは、意外にもあまり寄る機会がなく、こうして夜に訪れるのは初めてだった。

 棚の位置がいつも行く店舗と違っていることもあって、俺はキョロキョロとアイスの場所を探す。


「こっちみたい」

「あ、ほんとだ。音無は何がいい?」

「んー、バニラアイス。黒崎君は?」

「俺はチョコかなあ」

「じゃあ半分こしよ?」

「う、うん」

「えへへ」


 隣で微笑む音無と一緒にアイスを手に取る。

 ああ、幸せだ。

 可愛い彼女とイチャイチャしながらコンビニデートなんて。

 リア充そのものだ。

 

「じゃあ、レジ済ませてくるから」

「あ、ダメ。それは私が払うの」

「え? いや、だめだよ」

「実はね、今日お母さんにお小遣いもらったの。二人で美味しいものでも買いなさいって」

「母さんから?」

「うん。だからお言葉に甘えてそれで買うのはどう?」

「……わかった」

「それに、黒崎君おトイレ行きたいんじゃない? 行きたいよね?」

「う、うん?」


 確かに、コンビニの中が少しばかり冷えていてトイレに行きたかった。


 しかしそういうそぶりを見せたつもりもないのだけど、俺ってわかりやすいのかな?


「じゃあ、私が払ってくるから。早く済ませてきて」

「わ、わかった」


 俺はアイスの入った買い物かごを音無に渡してから、早足でトイレに向かった。


 そしてすぐに用を足してからトイレを出ると、音無はコンビニの外で俺を待っていた。



「ただいま……って誰もいないか」


 ここ最近、母さんたちの外出率が上がった気がする。

 それだけ儲けてる証拠なのだろうし、子供が手を離れてくれたから自由にできるようになって浮かれているのだろう。


 ほんと、気ままな夫婦だ。

 今日から音無が家に住むというのにほったらかしなんて、向こうの親が見たら怒るんじゃないかな。


「ねえ、アイス食べたらもう部屋にもどる?」

「そうだなあ。遅くなったしそうしよっか」


 音無と色々と話したいことややってみたいことはあるけど、慌てる必要はない。

 俺たちは付き合ったわけだし、これからしばらくは一緒なんだから。

 明日から、徐々に彼女との距離を縮めていこう。


「じゃあ、部屋でアイス食べない?」

「ええと、俺の部屋で?」

「うん。ダメ?」

「い、いいけど」


 上目遣いで甘えてくる音無が可愛すぎて俺は体が熱くなった。


 また、風呂での出来事を思い出しそうになりながらグッと堪える。


 まだ初日。

 いつかは、もしかしたら音無とあんなことやこんなことをする日が来るかもしれないけどそれは今日ではないだろう。


 焦って嫌われて、この幸せを手放したくない。


 それに、準備も何もできていない。


 ……高校生同士、だもんな。

 ちゃんと、着けるものは持っておかないとだし。


 でも、ああいうのってこっそり買って忍ばせておくものなのかな?

 ……聞く相手もいないからわからないけど。


 もし、そういうムードになったら買いに行くのかな?

 

 ……いや、変なことを考えるのはやめよう。


 今は彼女との幸せな時間を満喫するんだ。

 

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