第48話
「……あ」
風呂でのぼせて倒れたせいか、まだあたまがぼーっとする俺はリビングで棒状のアイスを食べながら涼んでいた。
そんな俺のところに、しばらくして風呂から出た音無がパジャマ姿で戻ってきた。
「黒崎君、もう体調はいいの?」
「う、うん。音無が介抱してくれたおかげかな」
「そっか。アイス、私も食べたいな」
音無が甘えるように隣にくる。
「あ、そういえばアイスこれで最後だったような……」
アイスを楽しみにしている様子の彼女に、今まさにアイスを咥えながら在庫切れを告げるのは心苦しく気まずい。
しかし、のぼせた頭が冷えたおかげか、いい打開策がピンとひらめく。
せっかく付き合ったんだから、コンビニまでアイスを買いにデートを提案したらどうか。
夜道を二人で一緒に歩いて、仲良くコンビニでアイスを買う。
想像しただけでにやけてしまいそうなシチュエーションだ。
うん、そうしたい。
「音無、あのさ」
「それ、ちょうだい?」
「……え?」
「今食べたいの。ねっ?」
俺が散々舐めてドロドロになったアイスを彼女が指さす。
しかしこんな食べかけのものを彼女に渡すのは気が引ける。
「いや、さすがにこれは」
「私とシェアするの嫌?」
「そ、そんなことはないけど」
「さっき何言おうとしたの?」
「え? い、いや別に」
「なに? 気になる」
音無がぐいっと顔を寄せてくると、ふわっといい香りが漂ってくる。
また、冷静さを無くしてしまいそうになりながら俺は意識を保つように必死に声を絞り出す。
「あ、あの、コンビニ、行きたいなって」
「コンビニ? どうして?」
「いや、ほら、いるかなって」
音無に迫られて動揺してしまい、口をパクパクさせながら俺はとけかけのアイスを見る。
アイスを買いに行きたい。
ただそれだけのことだが、一緒に行きたいと言うのが恥ずかしくなる。
「ん? あー、うん。そうだね、いるよね」
「そ、そうそう。だから、コンビニ行こうかなって」
「うん、いいよ。じゃあ、いこっか」
すんなりと音無が了承してくれてことなきを得た。
俺もそこでようやくほっとして、立ちあがろうとすると音無が。
「ん。つめたーい」
俺の食べかけのアイスを頬張った。
そして、じゅるっと音を立ててから。
「早くいこ?」
俺に手を差し伸べてきたところから、俺の記憶はあまりはっきりしていなかった。
自然に手を繋いで、一緒に夜道を歩いて。
隣からずっといい匂いがしていて。
なんだか夢のような時間を過ごしていた気がする。
そして。
気がつけばコンビニの前にいた。
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