第46話

「あら、二人とも早かったわね」


 帰宅すると、店の玄関前で暖簾を片付けている母さんに見つかった。


「ただいま」

「せっかく仕事休みなんだからゆっくりしてきてよかったのに。あれ、その荷物は?」

「あ、これは……」


 そういえば、今日は音無とデートに行くから休みをもらうと説明していただけで、まさかそこで音無の両親に遭遇したことなんて、どう説明したらいいのか。


「あら、もしかして京香ちゃんのご両親から?」

「え、なんでわかるの?」

「そんな高価なもの、あんたに渡してくれる人なんてそんなにいないでしょ」

「ま、まあ」

「ほんと、なんだか気をつかってもらって悪いわねえ。京香ちゃんは全然気を遣わなくていいからね」


 隣の音無に笑いかけると、母さんはそのまま音無の両親からもらったお土産を持って店の中へ戻っていった。


「なんか、やけに察しがいいな。連絡でもあったのかな」

「黒崎君、今日は疲れただろうし先にお風呂にでも入ったら?」

「う、うん? まあ、そうだな。先に入っていいの?」

「うん。私は色々準備があるから」


 そう言って、音無も先に店の中へ行ってしまった。


 なんだか、全然付き合った実感が沸かない。

 というより、これまでもずっと、まるで彼女のように一緒にいたせいで今更感が否めない。


 ……音無とこれからどうやって恋人として距離を縮めていけばいいのやら。


 まだ、ついさっき付き合ったばかりなのにそんな先の心配ばかりが頭によぎりながら。


 俺もゆっくりと部屋に戻った。



「はあ……生き返る」


 今日も父さんと母さんはおでかけらしく、仕事が終わるとそそくさと二人仲良く出て行ってしまったので俺は先に風呂に入った。


 今日はほんと色々あった。


 まずは音無が保健室に行って、そこで偶然キスをしてしまったり。


 デートのはずが、音無の両親が乱入してきたり。


 もちろん、音無が彼女になってくれたことが今日一の出来事ではあるんだけど。


 思ってたのと違うというか。

 まあ、音無が悪いわけじゃないし付き合ってたら色々あるんだろうけど。


 そういえば音無、準備がどうのって言って部屋に閉じこもってたけど何してるんだろ?

 

 引越しの荷解きかな。

 ……とにかく、今日からは友人ではなく彼氏なんだ。

 もっと音無と仲良くなれるように、色々考えないとな。



「……ふふっ」


 準備完了。


 最初から裸でお風呂に突入なんて、そんなの恥ずかしいからできないけど。


 水着ならいいよね?

 ドキドキ。


 お背中、流してあげる。


 今日もおうちは二人っきり。

 お風呂の中でも二人っきり。


「黒崎君、入るね」


 


 

 

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