第43話


 まずい。

 ママがストレートに質問してしまった。


 私と黒崎君はそりゃあずっと両想いだったし、四六時中一緒だし、最近は同じ部屋で寝泊まりもする仲なんだけど。


 私が肝心な時に眠ってしまっているせいでキスはまだなの。


 でも、そんなの時間の問題というか別にこの後すぐにだってすることになると思う。


 思うんだけど。


「まさかうちの子が毎日そちらにお世話になっててキスの一つもしてない、なんてことはないわよねえ?」

「あ、ええと、お、音無のお母さん、それは」

「あら、お義母さんでいいわよ。それとも、うちの子では不満かしら?」

「え、ええと?」


 ママが黒崎君を詰めはじめた。


 やばい流れかも。

 うちのママは、娘の私が言うのもなんだけど、多分相当に病んでいる。


 だから娘の彼氏が一途であることは当たり前で、その上で娘を溺愛していてドロドロでないと認めないって性格。


 だから私が黒崎くんの家に寝泊まりすることはむしろ歓迎といった感じだったし。


 でもその間に進展がないとなると、当然ママは疑う。


 黒崎君の浮気を。

 

 思春期の男子が、好きな人が間近にいて手を出すこともなく放置なんて、浮気しているに違いない。


 そんなことを考えてるはず。

 まあ、私だってずっと一緒じゃなかったら当然疑うけど。


 ……とにかくどうしよう。

 黒崎君、うまくかわしてほしいけど。


「あ、あの、お義母さん」

「あら、照れるわね。娘とはちゃんと添い遂げる覚悟があるのかしら」

「そ、添い遂げる?」

「あら、うちの娘とは遊び?」

「そ、そんなことはないです! 真剣です」

「そう。だったら、キスくらいは当然してるわよね?」


 ママの眼光が鋭くなった。

 私はたまらず、適当なことを喋って誤魔化そうかとも考えたんだけど。


 自信満々にこの場に連れてきたのは他の誰でもなく私だ。


 下手な言い訳をしたらママに叱られちゃう。

 どうしよう。


「あの、お義母さん」


 黒崎君が意を決した様子で立ち上がった。


 この状況でなんと言い訳してくれるのだろうと、固唾を飲んで見守っていると。


 彼は深々と頭を下げながら言った。


「俺、京香さんと……キス、しました!」



 

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