第41話
「美味しいね、どれも」
食事の途中でぽそりと音無がつぶやいた。
高級レストランなんてもちろん人生初だから何を頼んだらいいかわからず、適当なコース料理にしたのだけど前菜からメインまでとにかくうまい。
一応飲食店の息子として、料理そのものへの関心もあったしそれぞれのよさに感心していたのだけど、食事の間ずっと無言だったのはそのせいじゃない。
これから告白するんだと思うと再び緊張が俺を襲ってきて口が開かない。
音無も俺の緊張を察してか、黙って食事を続けていたんだけど。
たまらず、という感じで言葉を発した。
「う、うん。ほんと美味しいよね」
俺も必死に返事をしたが、やはりそのあとが続かない。
何か言わなければ。
そう思うほどに言葉が出てこず、メインディッシュの肉料理を淡々と口に放り込む。
しかしもちろんこのままというわけにはいかない。
回らない頭を必死に回転させて、俺は言葉を振り絞る。
「……あのさ、音無。今日話したいことについて、なんだけど」
「うん。わかってるよ」
「え? わ、わかってるって」
「大丈夫。私もちょっと緊張してるけど、大丈夫だから」
照れながら頷く音無を見て、俺の体はカッと熱くなった。
音無はやっぱり、俺が告白しようとしてることをわかっている。
そしてわかった上でのこの態度。
もう、彼女も俺と同じ気持ちだと疑う余地はない。
まだデザートが来ていないけど。
言うなら今しかない。
しかし言うのが怖い。
それでも今やらねばいつやるのか。
おそらく数秒の葛藤だったろう。
しかし俺には何時間も悩んだような気分だった。
そしてようやく、俺は口を開く。
「…-音無。俺、音無のことが好きだ」
言った。
言ってしまった。
もう、後戻りはできない。
俺は全身が燃えるように熱くなりながら、音無を見た。
「……うん。私も好き」
音無が小さくそう言った。
その言葉に俺は、一瞬頭が真っ白になる。
「え……ほんと?」
「ほんとだよ。ふふっ、嬉しい」
音無は口を拭きながら目尻を下げて少し口元を隠す。
その仕草があまりに可愛くて、俺はひっくり返りそうになったのを必死に堪えて、震える声で続けた。
「あ、あの。ええと、それじゃちゃんと、付き合うってことで」
「うん。だからこのあと、ちゃんと話そ?」
「う、うん」
少し引っかかる言い方ではあったけど、とにかく俺と音無は両思いだと知れた。
そして付き合うことに。
その高揚感で俺は頭をクラクラさせながらも、幸せを噛み締めるように音無を見る。
音無もまた、俺をみてニコッと笑う。
そんな姿を見て、これが夢でないと確信すると急に体がブルっと震えた。
「……ごめん、ちょっとトイレ」
緊張がとけたせいか、トイレにいきたくなった。
俺は音無を一人残して急いで部屋を出た。
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