第39話

 

 ついに黒崎君とキスだ。

 顔を寄せ合って、ゆっくりと、でもしっかりと。


 なんかあたたかい。

 黒崎君の唇、ちょっと震えて……。



「……ん。あれ?」


 目を開けたら保健室だった。


 そして目の前には、黒崎君と……お姉ちゃんもいる。


「あ、よかった目が覚めた。音無、もう放課後だよ」

「ほうか、ご……」


 黒崎君の一言に呆然とした。

 終わった。

 お姉ちゃんの時みたいに、保健室でキスをして結ばれるという験担ぎが失敗に終わった。


「音無、まだ気分悪いのか?」

「う、ううん。ええと、ずっといてくれたの?」

「ま、まあ。友近先生も今日に限って忙しかったみたいでさ。先生に事情説明してくれて俺がここにいることになって」

「そ、そう。ありがとう」


 心配してずっといてくれたのは嬉しいけど、だからこそ自分の愚かさを呪ってしまう。


 私は今日、ここで彼とキスをすれば万事うまく行くと思っていた。


 でも、できなかった。

 昨日興奮して夜更かししたせいだ。

 ほんと、私は肝心な時にいつも失敗する。


「ほら、二人とも帰りなさい。先生も時間外労働はごめんだ」


 私の落ち込んだ様子を見てもいつものように飄々としたままお姉ちゃんは退室を命じてくる。


 私はゆっくりベッドからおきあがり、黒崎君に連れられて外へ出た。


 もう夕日が沈もうとしている。

 こんな時間までぐーぐー寝ている女なんて、黒崎君は嫌じゃないのかな。


「……チラッ」


 彼を見ると、なぜか目をそらされた。


 ……やっぱり嫌われた?

 ううん、私の願掛けが失敗したからかも。


 お姉ちゃんもお姉ちゃんだ。

 私に散々、キスくらい済ませておけとか言っておいて。

 あんなに冷たく追い返すなんて。


 はあ。

 どうしよう、このあと。


 まだキスも済ませていないのに両親への挨拶なんて。

 不安になってきた。



 やってしまった。

 いや、不可抗力だから俺が悪いわけではないのだけど。


 あまりにも音無の寝顔が可愛くてつい、近くで見ようと顔を近づけた時のことだった。


 キス、してしまった。

 いや、正確には音無が動いて唇が触れてしまったのだけど。


 紛れもなくキスはキス。

 どうしよう、まさか起きてなかったよな?


 しかもそのあとすぐに友近先生が部屋に入ってきて。


「ほどほどにな」


 意味深なことを言われた。

 見られたかもしれない。

 明日、怒られたりしないよな……。


「……チラッ」


 音無がチラチラ俺を見てくる。

 でも、俺は気まずくて目を逸らしてしまう。


 このあとどうすればいいんだよ俺。


 まだ付き合ってもいないのにキスしてしまったなんて。


 ……もう、告白というより責任とらせてくれって言った方がいいのかな。


 はあ。

 どうやって告白しよう。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る