第38話

「体調不良なのはどっちだ?」


 保健室の先生が開口一番こう発した。


「え、ええと音無です。俺は付き添いで」

「授業中なのにか?」

「あ、ええとそれはまあ……」


 鋭く俺を睨む先生の名前は確か友近さやか。

 キリッとした美人で、男子の間では結構評判だから名前くらいは聞いたことがあった。


 まあ既婚者らしいし、歳も俺たちと10歳離れているので綺麗なお姉さんという程度の印象だけど。


 しかし誰かに似ている気がするけど気のせいか?


「まあいい。とりあえず担任の先生には私から連絡しておくから京……音無の世話をしておいてくれ」

「い、いいんですか?」

「大丈夫。じゃあ」


 友近先生はさっさと保健室からでていった。


「……音無、とりあえず横になる?」


 先生が座っていた椅子の後ろに見える白いベッドは綺麗に整っていて、しかもこれから使うのがわかっているかのように掛け布団が半分捲られていた。


 俺は幸いにも頑丈な体で産んでもらったおかげで、保健室を利用したことは一度もない。


 しかしなんとなく保健室にくる子はベッドで横になっているイメージがあった。

 だからほんとに何気なく音無にそう聞くと、


「うん、横になる」


 音無はさっさとベッドに横たわった。


 俺はさっきまで先生が座っていた椅子に腰掛けて、とりあえず先生の帰りを待つことに。


 しかし音無はほんとに調子が悪そうだ。

 顔も赤いし熱でもあるんじゃないか?


「なあ音無、ほんとにしんどいなら家に帰ってもいいんじゃないか?」

「……ううん、大丈夫。それに、放課後予定あるんだから」

「予定……いや、それは別に今日じゃなくても」

「ダメ。今日じゃないと、ダメ……」


 布団で口元を隠しながら音無が照れくさそうに言う。


 俺は思わずドキッとした。

 もしかして音無も、今日の放課後の俺の話を期待してくれている?

 いや、そうに違いない。

 そうじゃなければ、体調が悪いからまた後日ってなるはずだ。


 ……いっそのことここで告白してしまっても、成功するんじゃないだろうか。


 ……いやいや、だめだ。

 今は音無の看病のためにここにいるんだ。

 途中で先生が帰ってきたらややこしいし、ここは我慢だ。


「音無、目閉じろよ」


 そうだ、放課後があることだし今はゆっくり寝ておいてもらおう。

 邪な考えを正しながら音無にそう言うと、彼女もまた疲れていたのかそっと目を閉じた。



 ……きたきたきた。

 目、閉じろだって。


 このあと絶対キスされるやつだ。

 私、ちゃんと目を閉じて待ってます!


 ……あ、でも口元隠しちゃってる。

 ど、どうしたらいいかな?


 と、とりあえずこのまま私、待ってる。


 ようやくファーストキスだね。

 ちゃんと契りも交わして、放課後は堂々と婚前のご挨拶。


 ……ファーストキスはほんとにレモン味なのかなあ。

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