第29話
「ふう」
店が終わって風呂に入りながら一息ついた。
今日は色々あったというか、これから色々ありそうで気が気ではないからだ。
今日からしばらく、音無がうちにいる。
いつまでかも不明。
それに、さっき正式に音無の寝泊まりする部屋が決まった。
俺の部屋の隣の部屋。
しかも隣とはいっても襖で遮っているだけの、実質繋がっている部屋だ。
確かにうちは広いわけでもないし他に個室なんてないといえばないんだけど。
音無がすぐそこにいる状態で、俺は部屋で何をすればいいというのだ。
俺だって健全な男子高校生だし、それなりにプライベートというものもある。
でも、そんなものも今日からは皆無だ。
いや、そんな問題も確かに色々あるがそもそもの話、音無とほぼ同じ部屋で寝るなんて。
しかも昨日みたいにその日だけとかじゃなくてこれからしばらくなんて。
いや、同棲じゃんこんなの。
夫婦でもないのに。
まして恋人ですらないのに。
手も繋いだことないのに。
「黒崎君」
「う、うん? 音無?」
あれこれと。
風呂場で悩んでいると扉の向こうから音無が俺を呼ぶ。
「もうすぐ出る?」
「う、うん。何か用事?」
「お母さんがアイス買ってくれてるよ? 食べる?」
「う、うん。じゃあリビングに置いといてくれる?」
「わかった。あと、洗濯物回しておいたから」
「あ、ありがとう……」
こんな会話をしていると、音無がまるでうちの家族にでもなったような気分になる。
家族、というか嫁、というか。
……風呂から出たら、休みの日の予定とか聞いてみようかな。
♡
「ふふっ、ふふふ」
彼の洗濯物を洗濯機に放り込む私。
彼の食べるアイスをテーブルに用意する私。
彼のスプーンを敢えて使ってみる私。
彼のTシャツも敢えて着てみる私。
彼のお部屋もついでに掃除してあげる私。
全部、私の特権。
もう、親公認でお嫁さんだから。
彼も私のことが大好きだから。
今日から毎日、一緒に寝て起きてご飯食べてテレビを見て。
同じものを食べて同じものを飲んで同じトイレを使って同じ空気を吸う。
はあ、幸せ。
早くお風呂あがってこないかなあ。
「私の食べかけのアイス、あーんしてあげるから」
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