第28話

「今日も京香ちゃん、お泊まりすることになったから」


 猫カフェを出て店についてしばらくしてから。

 母さんは皿を洗いながら俺にそう言った。


「え、今日も?」

「ええ。というより、しばらくうちに住みたいみたいなんだけど」

「はあ? なんでそんな話になるんだよ」


 驚きすぎて思わず手に持っていた皿を落としそうになりながら母さんを見ると、なぜかニヤニヤと笑っていた。


「嬉しいくせに。ほんと照れ隠しが下手ね」

「そ、そういう話じゃなくてだな。大丈夫なのか?」

「京香ちゃんがいいって言ってるんだから大丈夫でしょ。それに、向こうのお母さんともお話したわ」

「はあ? なんでだよ」

「雇い主としてご挨拶を兼ねてね。それに京香ちゃんにはいつもお世話になってるから御礼もしないとだし」

「……どんな親なんだ?」

「話した感じはとても理解あるいい人だったわよ。でも忙しいみたいでご両親とも明日から海外に出張なんですって。だから家にしばらく泊まるってわけ」

「……なるほど」


 まあ、なるほどとはならないが。

 しかしいくら忙しいからとはいえ、高校生の娘を放って仕事ばかりとは……いや、うちも似たようなものか。


 土日もずっと仕事でろくに遊びに連れて行ってもらったことなんてない。

 そのことで喧嘩もよくしたっけ。

 でも、懸命に働いてくれてる親のおかげで何不自由なく暮らせてるということに今更ながら気づけたわけで。


 きっと音無もその辺はわかってるんだろう。

 だからあれこれ勝手におせっかいするのはよそう。


 ……いやいや、だからといってなんでうちにしばらく居候?


 いくら誰もいなくても自分の家の方が落ち着くと思うんだけどな。



「京香ちゃん、あの子の隣の部屋は好きに使っていいから。あと、せっかくだからお洗濯とかも手伝ってもらっていいかしら」

「もちろんですお母さん。あと、彼の身の回りの支度は明日から全部私がやりますから」

「あらあら頼もしいわね。これからずっとよろしくお願いね」

「はい」


 赤ちゃんが欲しい。


 そんな願望を包み隠さずお母さんに話すと、色々と相談に乗ってくれた。


 高校はちゃんと出た方がいいとか。

 だけど早く孫の顔が見れるのは歓迎だとか。

 だから今はその練習として花嫁修行でもしたらどうかとか。


 いっぱい話して、一緒に住むことが決まった。


 両親にはすぐ連絡をした。

 まあ、何についてかといえば両親の海外出張の件。


 私がいるから躊躇していたみたいだけど、大丈夫だと伝えたところ、黒崎君のご両親にも連絡してくれてとんとん拍子で話がまとまった。


 これで晴れて私は彼と家族になった。


 だから焦らず、と言いたいところなんだけど。


 昨日の続きくらいはしたいな。


「えへへ、お母さんからお部屋の鍵も預かってるからね」

 

 

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