第27話

「にゃんにゃん、にゃー」


 カフェで開口一番鳴いたのは、音無だった。


 受付を終えて猫のいるカフェスペースに入るや否や、まず足元にお出迎えに来てくれた三毛猫に対して、しゃがみながら鳴いた。


 正直な話、可愛すぎて鼻血が出そうだった。

 もちろん猫が、ではなく。

 猫になった音無が、である。


「見て、可愛い。この子、私の言ってることわかるのかなー……あっ」


 無邪気に喜ぶ音無は、俺の顔を見ると我に返ったのか焦って立ち上がり顔をそらした。


「ご、ごめん。はしゃいじゃって」

「い、いいよそんなの。可愛いからウキウキしちゃうのは俺もだし」

「……可愛い?」

「うん。めちゃくちゃ可愛い」


 もちろん音無が、とは言えず。

 俺の足元に擦り寄ってきたロシアンブルーを見ながらそう答えると、音無は少し嬉しそうにしながら頷いて席へ向かった。


 二人がけのテーブル席が五つほどの小さなカフェには、客は俺たちしかいない。

 店員さんも一人。

 その代わりというか、まあ猫カフェなんだから当然だが猫は十匹ほど。


 店員さんがお水を持ってきてくれる時も、可愛い猫が二匹側についてくる。


 そんな癒しのスペースでほっこりしながらミックスジュースを二つ頼んで音無の方を見ると、音無も癒されたのか普段より緩んだ表情で俺の方を向いていた。


 そのあと、店員さんが飲み物を持って来てくれた時。


 一緒にやってきたのは虎柄の子猫だった。


「あ、可愛い」

「ふふっ、この子はまだ半年くらいの子猫ちゃんなの。可愛いでしょ」


 得意げに話す店員さんを音無は本当に羨ましいと言わんばかりの目で見つめていた。


 そしてもちろんここは猫カフェだから。

 店員さんは子猫を抱っこしてから音無にそっと預ける。


「ほら、この子は大人しいから抱っこしてあげて」

「うわあ、可愛い。ちっちゃいー。赤ちゃんだねー」


 俺のことなんてそっちのけで猫にかまける音無を見ていると、彼女は思ってるよりも情緒に溢れた女の子なのかな、なんて。

 少しミステリアスな部分のある彼女の意外な一面にほっこりさせられる。

 

 やがて、子猫を抱っこしたまま俺の方を向いた音無は、「可愛い?」と。

 いつものように聞いてくる。


「うん。可愛いよ」

「うん。ねえ、赤ちゃん欲しいな」

「え?」


 音無の胸の中で「きゅうっ」と鳴く子猫。

 そんな子猫を撫でながらおねだりする音無に、俺は否定的な意見を述べる冷静さを待ち合わせてはいなかった。


「俺も、ほしいな」

「ほんと? ほんとに?」

「うん。だから母さんに聞いてみるよ」

「……だよね。親の許可はちゃんと取らないとね」

「まあ、高校生だから」

「うん。じゃあ」


 子猫の喉を撫でながら。

 音無は嬉しそうに言った。


「私も、お母さんにちゃんと聞いてみるから」

 


 

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