第26話

「黒崎君、帰ろっか」


 放課後。

 いつものように、といえばおこがましいかもしれないがまあここ最近の流れ通り、音無と一緒に店へ向かうことに。


 一緒に教室を出る時、俺たちを見ながらひそひそと話す連中を目にしたがそのあたりの誤解は高市がうまく解いてくれるだろう。


 というのも、昼休みに俺と音無はそういう仲じゃないと言っておいたから。


 まあ、高市は「はいはい」と呆れた様子だったけど。


「さて、今日は仕事終わったらさすがに帰るよな?」

「うん。着替えもないし」

「そ、そうだよな。じゃあ、仕事終わったら送るよ」

「うん。それより、ちょっとだけ寄り道してもいいかな?」

「いいけど、どこいくの?」


 すると音無はまっすぐ前を指差した。


 その先にあったのは、なんと猫カフェだ。


「こんなところに猫カフェなんかできてたんだ」

「うん、昨日オープンだって」

「でも、俺と一緒でよかったの?」

「うん。好きな人同士で行った方が楽しいから」


 何気ないその一言にどきっとさせられたが、まあ、猫が好きなもの同士という意味だろうからと、触れずにはいたけど。


 やっぱり意識してしまう。


 いくら俺が猫好きだからといっても音無だって年頃の女子なんだから、嫌いな男子と猫カフェなんて行かないだろうし。


 ほんと、どう思ってるんだろう。


 聞きたいけど、聞けないよなあ。

 そんなの告白になっちゃうから。


「じゃあ、三十分くらい遅れるって母さんに連絡しとくよ」

「さっき連絡しておいたから大丈夫。ゆっくりでいいって」

「そ、そうなの? なんか音無には随分甘いよな母さんって」

「優しいよね。私は好きだなあ」


 なんとも優しい表情で頷く音無。

 本当に母さんとは気が合うのだろう。

 まあ、それは良いことなんだけど俺としては益々動きづらくはなる。


 万が一フラれたら。

 せっかくの母さんと音無の関係さえ不意にしてしまう。


 それも余計な心配というか、そんなことを気にして恋愛なんてするべきでもないのかもしれないけど。


 どうしても最悪のことを考えてしまう。

 だから今は大人しく。

 

 せっかく猫カフェデートなんだ。


 ……デート、なのかな。



 放課後デートワクワクするなあ。


 今日は学校であんまり時間なかったから、お母さんにバイト遅れるってお願いしといてよかった。


 ふふっ、放課後はちゃんとキスしちゃうから。


 そこの猫カフェって、カップルシートがあるんだよ。


 好きな人同士で行く場所、だから。


 昨日みたいに、優しくキスしてね。

 

 

 

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