第24話
「……ん?」
窓から差し込む朝日で目が覚めた。
ゆっくり目を開けると、俺の膝元で眠っていたはずの音無の姿はなく、部屋を見渡しても彼女はいなかった。
時計は午前六時。
俺はベッドによりかかるように眠っていて、もたれていた背中が少し痺れていた。
肩にかかっていた毛布は音無がかけてくれたのだろうか。
立ち上がり窓をあけると、涼しい風が吹き込んできた。
……音無、もう帰ったのかな。
昨日は結局、何がしたかったのだろうか。
それすらわからないままだったが、あれが夢じゃなかったのは間違いない。
彼女の髪の感触は鮮明に覚えている。
それに風呂上がりの香りも。
あのまま二人とも起きていたら、もしかしたら……。
「あ、おはよう」
「え、音無?」
部屋に入ってきたのは制服姿の音無だった。
「どうしたの?」
「い、いや。ええと、先に起きたんだ」
「うん。寝ちゃったね。仕事で疲れてたのかも」
「あの。ずっとうちにいたの?」
「うん。ちょっと前に起きたから着替えてお店の掃除してた」
何事もなかったように音無は俺に話しかけてから、そのまま部屋を出ていった。
どうやら本当にうちに泊まっていった、らしい。
もちろん何もなかったわけだが、誤解を恐れずに言えば音無と一晩をともにした、ということになる。
まあ、だからと言って何か俺たちの関係に進展があったわけではない。
もしあのまま起きていたらとか、寝ている彼女に迫ってみたらどうなったかなんてことを何度も考えたが、結局そんないくじのない俺には無理な話だった。
さっさと切り替えようと、着替えて店の方へ向かう。
すると母がいつものように掃除をしていた。
「おはよう母さん」
「あらおはよう。てっきり寝坊かと思ったわ」
「落ち着いて寝れるかよ」
「まあそうよねー。若いものねえ。ふふっ、気の利く母親に感謝しなさいよ」
「何の話だよ」
「ふふっ、いいのいいの。それより、京香ちゃんのお手伝いしてあげなさい」
昨日よほどいいことでもあったのか、ウキウキした様子の母さんは店の外へ出て行った。
そして厨房へ向かうと音無が。
これまたなぜかご機嫌な様子で目玉焼きを作っていた。
「ふふっ」
「あの、音無?」
「あ、黒崎君? どうしたの?」
「ええと、なんか手伝おうかなって」
「ううん、大丈夫。座ってて」
「で、でも」
「大丈夫だよ。すぐできるから」
手際よく目玉焼きをフライパンの上で滑らせて皿に盛る音無は、いつになく柔らかい表情で俺の方を見上げながら。
小さくつぶやいた。
「今日は記念日、だからね」
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