第20話
♤
「母さーん。あれ、母さん? おーい」
2階に上がって部屋で着替えてガラ母さんの姿を探したがどこにもいない。
まさか音無が泊まるなんて日に出かけてたりしないだろうなと不安になりながら風呂へ向かう。
すると、
「あ」
スウェット姿で髪を拭きながら音無が風呂場から出てきた。
「あの、お風呂お先に借りたから」
「う、うん。あの、ほんとに泊まるの?」
「うん。お部屋、隣だからよろしくね」
「そ、そう」
「お風呂、入って」
「う、うん」
濡れた髪を拭くその仕草がやけに色っぽくて俺は戸惑っていたが、彼女は素知らぬ顔で俺の部屋の隣にある部屋へ入っていった。
どうやら、本気で泊まるつもりのようだ。
しかしどうして頑なに家に帰りたがらないのか。
親との不仲でないとすれば一体……いや、考えてもしょうがない。
とりあえず風呂に入ろう。
音無にもそう言われたし。
汗臭いと嫌われてしまう。
「でも、母さんのやつほんとどこ行ったんだろ」
客人がいるというのにほったらかしでどこかに行くなんて母さんらしくもないが、それも考えたってどうしようもない。
湯船に浸かりながら一度頭を空っぽにしようと目を瞑る。
気持ちのいい温度だ。
一日の疲れが抜けていく。
ふう。
「さてと、体洗って出るか」
「黒崎君」
「ん、どうした音無……お、音無!?」
すりガラスの向こう側に音無の姿がぼんやりと見えて、俺は慌ててもう一度湯船に浸かり直した。
「着替え、忘れてたみたいだから置いておくね」
「あ、ありがとう……」
「お母さんに頼まれたから。じゃあ、のぼせないようにしてね」
「あ、ああ」
音無の影は消えた。
それを確認してから俺は湯船を出て体を洗う。
その間、ずっと体が熱かった。
決してのぼせたりはしていないのに。
なぜか頭がくらくらしていて。
風呂を出て脱衣所に行くと、俺の着替えと共に少しだけ爽やかな香りがそこに残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます