第19話

「音無、家帰らなくて大丈夫なのか?」


 カウンターで音無と並んで飯を食べながら、彼女に話しかけた。


 今日はお客さんもまばらで手伝いも構わないそうなんだけど、それより母さんは妙に気を利かせてるような気がする。


 だから音無が母さんに何を言ったのか。

 さりげない会話から探ろうとしたのだけど。


「ママには連絡してあるから」


 ママ、というのはおそらく音無の実の母のことだろう。

 やっぱり、仲が悪いわけではないのか?

 嫌いな親のことをママなんて言わないだろうし、そもそもマメに連絡なんてしないはずだ。


 だとしたら他に帰りたくない理由があるというわけか。

 ……なんなんだ?


「黒崎君は、私がいたら困る?」

「え? いや、そんなことはないけど」

「じゃあ、嬉しい?」

「え、ええと……」


 急になんて質問をしてくるんだ。

 音無が泊まることが嬉しいなんて言えば、それこそ変なことを考えてるみたいに聞こえるじゃないか。

 でも、嬉しくないなんて答えると迷惑そうに聞こえてしまうし。

 実際、嬉しくないわけじゃない。

 ちょっとだけ、ワクワクしてる自分がいる。

 そんな気持ちを正直に話しても嫌われないんだろうか。


 ……んー。


「誰かが泊まりにくるなんて初めてだからさ。正直、ちょっと楽しそうかなって思ってる」


 精一杯自分の気持ちをぼかしながらそう話すと、音無は納得したように何度か頷いた。


 そして、


「じゃあ、先にお風呂借りるね」


 髪をかきあげながらそう言って立ち上がると、自分の食器を厨房へ持っていって。


 母さんと何か話したあとでそのまま家の方へ上がっていった。



「ふふっ、えへへ、黒崎君とお泊まりデート」


 風呂場へ向かう私は、笑いがとまらなかった。


 お母さんも快く受け入れてくれたし。

 なんと気を利かせて今日はお父さんと二人で知り合いの人の家に飲みに行くと言ってくれた。


 つまりは、今日はずっと二人っきり。


 お部屋は隣にしてくれたしー。


 あのお部屋って、襖開けたら繋がってるし。


 さてと、ちゃんと体を綺麗にしておかないと。


「もう、逃さないからね」

 

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