第15話
「あ。明日菜いたよ」
音無が指差した先は、駅前の噴水のところ。
その前には、今朝方うちにきてくれた明日菜さんがいた。
「京香、早かったじゃん。それに黒崎君も。来てくれたんだ」
「こんにちは明日……成宮さん」
「ん? 私フルネーム言ったっけ? ま、いいか。で、京香はなんで拗ねてるの?」
「……明日菜、やっぱり嫌い」
「なんでそうなるのよ。ほら、カラオケいこーよ久しぶりに。それに、京香だけだと全然歌わないからつまんないし」
ノリノリの明日菜さんだが、しかし対照的に音無は機嫌が悪そうだ。
何かあったのか?
「なあ音無、喧嘩でもした?」
「明日菜が悪い」
「そ、そうなの?」
「あはは、ほんと京香はひどいね。ま、いいや。そこのカラオケ予約してるから早く行くわよ」
音無の様子など知ったこっちゃないと、明日菜さんは先にカラオケ店へ入っていく。
そして彼女の姿が見えなくなってからようやく音無がゆっくり歩き始めた。
「成宮さん、元気だな。いつもああなの?」
「普段の明日菜が気になる?」
「べ、別に。なんか音無とは全然違うタイプなのに仲いいんだなって」
「明日菜は私のこと理解してくれてるから。そういうところは……まあ、仲良くやれてるとこかな」
「そっか。俺なんて仲のいい友達とかそんなにいないから羨ましいよ」
「明日菜と仲良くなりたいの?」
「い、いやそうじゃなくて」
音無が段々と不機嫌になっていくのがわかる。
しかしその理由がわからない。
明日菜さんと仲良いはずなのに、どうして彼女のことを話すと機嫌が悪くなるのだろう。
「おーい、なにしてんのさ。早く来ないともったいないよー」
明日菜さんが一度部屋から出てきて俺たちを呼ぶと、音無はため息をつきながら部屋に向かって行った。
俺は少し気まずいまま、音無についていく。
そして部屋に入ると、今度は明日菜さんがムスッとしていた。
「京香、いい加減にしないと怒るわよ」
腕を組みながら音無を睨みつけると、音無はシュンとしながら明日菜さんの隣に行く。
「……ごめんなさい」
「はいはい、わかればよろしい。まあ、気を利かせて途中で帰ってあげるから。あんたも私みたいな友達大事にしなさいよ」
「わ、わかってるもん。明日菜、なんか歌って?」
「早く帰ってほしいんでしょ」
「あ、バレた?」
「ほんっとあんたってやつは……まあいいわ、歌いましょ」
女子二人の会話は聞こえなかったけど、とりあえず最終的に仲直りしたようで、二人仲良くデンモクで曲を探していた。
俺は邪魔をしないようにさりげなくソファの端の方へ座る。
やがて、曲が入った。
今流行りのアニソンだ。
マイクを持ったのは明日菜さん。
「さーて、歌うわよー」
ノリノリで歌い始めた明日菜さんの声は驚くほどによく通る。
うまいのはもちろん、何か圧倒されるものがある。
俺は思わず「おお」と声が出た。
そして聞き入っていると、いつのまにか音無が俺のそばに来ていた。
「う、うん? どうしたの音無?」
「……好き」
「え?」
唐突に告白された。
そう思って心臓が口から飛び出そうだったがそんな勘違いも束の間。
画面を見ると、可愛い猫の映像が流れていた。
また猫か。ほんと好きなんだな。
「ほんと、好きなんだな」
「うん。好き?」
「もちろんだよ」
「明日菜より?」
「え?」
まさか猫と友達を天秤にかけられるとは思わなかったので少し戸惑った。
でも、俺からすれば明日菜さんはただの知り合いだからなあ。
昔から好きな猫の方が俺にとっては大事、なのかな?
「まあ、そうだな」
「うん。私も」
音無は嬉しそうにそう言った。
まさか友達より猫が好きとは意外だったけど、それだけ愛猫家ということか。
なんて会話をしていると、歌が終わった。
そして一息ついた明日菜さんは、「ほら、次の曲」と、俺たちにデンモクを渡してから「飲み物とってくるね」と言って部屋を出ていった。
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