第12話


「いらっしゃいませー」


 午前十時。

 店がオープンすると同時に一人の女子高生がやってきた。


「あ、いたいた。京香ー、きたよー」

「あ。明日菜」


 どうやら音無の知り合いのようだ。

 明日菜って、そういや仲の良い子だよな。


「へー、ちゃんと働いてるんだ」

「うん、ばっちり」

「なんか様になってるねー。私、ラーメンちょうだい」

「はーい、ラーメンひとつ」


 オーダーが通って俺が厨房へ行くと、入れ替わるように母さんが二人のところへ行った。


「いらっしゃい、京香ちゃんのお友達?」

「はい。明日菜です。おばさま、京香は頑張ってます?」

「ええ、とても。それに、お友達まで連れてきてくれて。うちの子なんて誰一人連れてきたことないのに。そうだ、まだ朝は暇だからゆっくりお話してて」

「え、お母さん仕事中だしそれは」 

「いいのよ、遠慮しないで。忙しくなったら呼ぶから」


 女子高生二人を相手でも母さんはペラペラとお喋りをやめない。

 そして促されるように音無は明日菜さんという同級生の向かいに座る。


 母さんはそのあとすぐに、「相馬、ラーメンできたら二人のとこにお茶でも入れてあげなさい」と。


 なんか、すっかり音無の方が可愛がられてるな。



「でも、びっくりしたんだけど。京香に好きな人できたとか」

「だ、だって黒崎君かっこいいし、優しいし。それに、好きって、言われちゃったもん」

「え、もう付き合ってるってこと?」

「ま、まだだよ。両思いだけど、もじもじしてるの」

「へー、楽しい時じゃん。で、なんとなくラーメン頼んだけどおすすめはなんなの?」

「黒崎君」

「いや、あんたの好み聞いてないから。美味しいのは何かって」

「黒崎君」

「……あんたって、うすうす感じてたけどメンヘラだよね?」

「ち、ちがうもん」

「じゃあ、今何が一番欲しい?」

「こ、子供?」

「……将来の夢は?」

「黒崎君のお嫁さん……あ、夢というかリアルな将来像かな」

「…………ちなみに、ここのバイト週何回入るつもり?」

「え? 私はお嫁に行くから毎日いる予定だよ?」

「天然なメンヘラ初めてみたわ」


 こわーっ、と明日菜が首を振る。

 何かおかしいこと言ったかな?

 んー、よくわかんないけど。

 でも、明日菜にも会えてよかった。


「明日菜、わざわざありがと。今日のこと忘れないから」

「いや今生の別れみたいに言うな。今日何時までバイト?」

「黒崎君が三時までだから三時かな」

「きっちりしてるねえ。そのあと暇なら、久しぶりにカラオケでもいかない?」

「二人で?」

「そのつもりだけど?」

「いかない」

「え、なんで?」

「黒崎君がいないし」

「うわー、だいぶ病んでるわー。じゃあ、黒崎君が一緒だったら?」

「いく。明日菜はすぐ帰ってね」

「つめたっ!」

「えへへ、明日菜とも遊びたいけど、黒崎君との時間を割いては嫌だし、黒崎君がいるならどうせなら二人っきりになりたいもん」

「んー、大丈夫なんかなこれ」


 明日菜が呆れているところに、ちょうど黒崎君がやってきた。


「はい、ラーメンです」

「わー、美味しそう。それに、結構感じ良い人じゃん」

「え、俺ですか?」

「そ、そ。京香のこと、よろしくね」

「は、はい。こちらこそ」

 

 せっかく黒崎君がきたのに、私より明日菜の方がしゃべってる。


 敵。

 明日菜は今日から敵だ。


 昨日の友は今日の敵。


「じーっ」

「京香、睨まないでよ」

「だって」

「はいはい。黒崎君、ほんとドンマイ」

「え?」

「なんでもない。じゃあ、いただきます」


 明日菜はラーメンを一口食べると、「んー、おいしー! これ毎日食べたいー」なんて言う。

 明日菜、絶対黒崎君のこと寝とる気だ。

 許さないから。


 ふんだ。


「黒崎君、仕事戻ろ」

「え、でも友達来てるのにいいの?」

「いい。ずっとサボってたら悪いから」


 黒崎君と一緒に、私は席を離れる。


 そして明日菜に向かってベーッとすると、「京香、よかったね」と。


 やっぱり明日菜はいい友人だなあと。


 しみじみ感じながら彼と一緒に厨房に入った。


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