第11話
「……ん」
「おはよう黒崎君」
「ああ、おはよう音無……音無!?」
誰かの声がして目を覚ますと、目の前には音無の顔が。
俺はベッドから飛び起きた。
「そんなにあわてなくても、まだ六時だよ?」
「い、いや。なんで音無が俺の部屋に?」
「お母さんに起こしてきてって頼まれて。部屋、入られるの嫌だった?」
「そ、そんなことはない、けど」
心臓がバクバクして、うまく喋れない俺は音無から逃げるようにベッドを降りて部屋の窓を開ける。
「ふう。しかし朝早いなあ。音無、ちゃんと寝てる?」
「うん。朝のお味噌汁の仕込みをね、お母さんに教えてもらってたの」
「勉強熱心だなあ。なんでそんなに頑張れるの?」
「だって、その方が喜んでもらえると思って。そんなことない?」
「んー」
母さんを喜ばせたいなんて、そんな大層立派なことをまじまじと考えたことなんてなかったけど。
まあ、もちろん母さんは音無が自分の仕事を覚えてくれたら大助かりというか大喜びだろうけど。
「そりゃ嬉しいだろうけど、音無が無理することじゃないからな」
「うん、優しいね」
「そ、そんなことないって。その、最初に頑張りすぎて続かないなんて方が、ダメかなって」
かくいう俺もそうだった。
中一の時、どうせやるならとことんなんて気持ちで朝から夜までずっとアルバイトをしていたせいで体調を崩してモチベーションも下がって、結局一年ほどしかもたず、その後三ヶ月くらい休んだ経験がある。
最初はなにをしても新鮮で楽しいと感じるものだ。
でも、やりすぎたら飽きたり息切れしたりする。
音無にはそれこそ長く……いや、なんでこんな心配してるんだ?
「ありがとう、黒崎君。そうだね、頑張りすぎてもダメだよね」
「う、うん。だからほどほどにね」
「わかった。飽きられないように頑張る」
「う、うん?」
この場合だと、飽きないようにというのが正しい日本語じゃないかなと思ったけど。
細かいことをいちいち指摘するのもなんなのでそれは聞き直さず。
二人で店へ降りた。
いつもならこの時間だと父さんが出汁を沸かしていたり母さんが味噌汁を作っていたりで厨房が騒がしいのだけど。
今日は誰もいない。
「ん、やけに静かだな」
「お父さんとお母さん、もう仕込み終わったから部屋で休んでるって」
「そうなの? まあ、最近忙しかったから疲れてるのかな」
「そうみたい。だから朝ごはん食べたら私たちでできることはやっておかない?」
「う、うん。そうだな、たまには俺も頑張るか」
「じゃあこれ。目覚まして」
早速仕事モードの音無は、寝起きの俺のためにコーヒーをいれてくれた。
「あ、ありがと」
「ブラックなんだよね? 大人だね」
「い、いや。甘いのが嫌いで」
「ううん、大人っぽくてかっこいいよ。私はココアにした」
二つ並んだ青とピンクのコップは見たことのないものだ。
音無が持ってきたのかな?
でも、これ。
「お、お揃いだな」
「嫌だった?」
「そ、そんなことないよ」
「そっか。ずっとここでお世話になるんだし、持ってきたんだ」
ずっと。
それがいつまでを指す言葉なのか、俺にはわからなかったけど。
隣でココアを飲みながら「美味しい」と呟く音無が、ずっとここにいるようなそんな予感をさせた。
♡
「美味しい」
大好きな人の隣で飲むココアは、本当においしい。
土日は、いつも嫌いだった。
学校に行かなくていい反面、両親もいない広い家で一人でずっと過ごすのも退屈で、時間が経つのをぼーっと待つだけで。
明日菜は部活とかで忙しいから夜に電話したりご飯食べたりだけで。
そういえば、明日菜と最近会ってないかも。
ここで花嫁修行を始めたことは伝えたけど。
今日あたり、きてくれるかな?
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