第29話 争奪、戦

 甲府駅であずさ50号を降りた僕たちは駅名標の前に行き、撮影する。

そしてまた、乗ってきたあずさ50号に乗り込む。


「あんっ。どうして1度降りたの。そのまま乗ってればいいじゃないの!」

「47都道府県庁所在地駅を巡る旅では、駅名標の前での撮影が必須なんだ」


 事情を説明するが、みずほは主催ゲームのお題発表の腰を折られたばかり。

ご機嫌は綺麗な斜め45度。金髪ツインテールは小刻みに震えている。


「あんっ。そんなの、面倒でしょう! やってられないわっ!」


 はなしを逸らす以外にない。


「それよりみずほ。主催ゲームのタイトルは?」

「そうだったわ。私が提案するのは、伝統的にしてトラディショナル、

 お手軽でイージー、速くてスピーディーな、あのゲームよ!」


 なんだかすごそう! 同じことを繰り返しているだけなのに。


「で、そのゲームとは?」


 手に汗を握る。一体、どんなゲームが飛び出すのだろうか?


「テーマは、アイドルの女神様は見てるってこと!」


 アイドルの女神様! どんな姿をしているのだろう。

みんな、固唾を飲む。みずほに注目する。


「それは『あみだくじ』よ!」


 あっ、あみだくじ……だとぉ?

なんてこった。くじを引く順番を決めるのに、くじを引くなんて……。

じゃあ、あみだくじを引く順番はどうやって決めるのさ?

というパラドックスによく陥らずにいられたものだ。


 単刀直入に、こだま。


「で、そのあみだくじを引く順番は、どうやって決めるんですか?」

「ふふんっ。そんなの!」


 言ったきり黙り込むみずほ。

徐々にジトーッとした嫌な汗を掻きはじめる。

やはり、簡単なロジックを見落としていたようだ。


「さぁ、どうなんです、みずほ」

「…………」


 何も言い返せないみずほ。こだまが追い討ち。


「黙っていては分かりませんよ!」

「うぐぐぐぐ……」


 こだまの執拗な攻勢に、1本取られたみたいにしてるけど、

普通に考えれば自滅しただけのみずほだった。


 そこに、ホワイトナイトが出現する。のぞみだ。


「同様にたしからしくするという点では、あみだくじは理にかなってますよ」


 のぞみ、何を言ってるんだ?

まず、同様にたしからしいが分からない。聞いたことはあるんだけれど。

どこに理があるんだろう。さっぱりだ。


「そうよ、そうよ! あみだくじは、同様にたしからしいのよ!」


 みずほも多分、分かってない。

それでも乗っかるなんて、さすがはアイドル、愛すべきクズどもだ。


「うぐぐぐぐ……」


 今度はこだまが唸る。本当に効いているようだ!

おそらく、こだまには同様にたしからしいの意味が分かっているんだろう。

分かったうえで反撃できないなんて、同様にたしからしいは、素晴らしい!


「……同様にたしからしいって、どういうことよ……」


 分かってないんかーい!


 こだまは、人の心を読むには長けているが、知識が豊富なわけではない。

対するのぞみは、便利なアプリを自作するほどロジカル。

みずほやさくらは、感情の起伏が激しく、表現も過激。


 そんななか。


「まぁまぁ、みんな、仲良くやろうよ。早速、あみだくじを作ったから!」


 ひかりは黙って作業する。


 こうして、同様にたしからしいとは何なのか、

分からないまま、みずほの主催ゲーム『あみだくじ』がはじまる。




 上段の左から僕・のぞみ・ひかり……と、歳の順に名前を書く。

主催者のみずほは参加しない代わりに、

棒の部分を隠して、下段に得点を記入していく。


「1点・2点・3点・6点……って、どうして最後が100点なんですか?」

「10点の間違いじゃないの?」

「今までのゲームがそうなんですから」


 これまでの5つのゲームは、トップから順に10・6・3・2・1点。

主催者は自動的に4点だった。のぞみやひかりの言う通り、

普通に考えれば10点なのに、最後の1つだけ0が多い。


 ここまでの得点は、トップのこだまがパーフェクトの44点。

以下、のぞみ27、みずほとさくら16、僕14で、最下位はひかりの13点。

すでにこだまとのぞみの総合1位・2位は確定している。

と、思われていたのに100点だ。


「いいのよ。神様が決めるんだから! あと、主催者得点は22点よ」


 4点に決めたのは5人の平均だから。トップの点が高騰すれば、平均も高騰!

22点は妥当?」


 阿弥陀様は如来。どちらかというと仏の仲間なんだけど。

そんなことはどうでもいい。


「わーい。赤坂、100点取ったら逆転できるーっ!」


 さくらの一言で、みずほの理屈が通る。

5つのゲームで44点を積み重ねているこだまだけが反対するが、

簡単にかき消されてしまう。


「これで、決まる!」

「全てが、決まる!」

「いいや、決める!」

「決めてみせる!」

「……受けて立つわ!」


 決まるのは、サンライズの寝台!

を決める、くじを引く順番。


 ここに、最終決戦の幕が開く。




 サンライズ号のシングルデラックス争奪戦の大勢が決するなか、

あずさ50号は東京都の西の外れ、八王子駅に到着する。

___________________ここまでの経路 3月16日その29

甲府  1835====(あずさ50号)====1936八王子

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