第13話 大大大チャーンス、ターイム
新幹線口のある右側へ移動。石川啄木の歌碑や『故郷の星』などを見物。
18番線に設ってある『青森ねぶた』の巨大レリーフも賑やか。
新幹線の改札を潜っても、見どころはある。1番に見つけたのはみずほ。
「パンダ!」
陶板壁画の『上野四季繁栄図』だ。他にも蝶や花などが描かれている。
みずほがこんなにパンダが好きだなんて、知らなかった。
予定を変更して上野観光をしてよかった。本当によかった!
そっとみずほに近寄り、はなしかけてみる。
「ジャージ交通流の上野観光はどうだった?」
みずほに『大満足』って言ってもらえたら、僕もうれしい。ところが……。
「そっ、そうね。いいんじゃない……かな……」
みずほはよそよそしくどこかへと行ってしまう。
あれっ? おっかしいなぁ……満足していないんだろうか。
金髪ツインテールの後ろ姿に元気も溌剌もない。
そこへ。
「隙ありーっ!」
さくらが言いながら僕に抱きついてくる。これで13回目。
悪いのは全部、つばささん。緊張していたみんなを和ませるためとはいえ、
『隙をみせた君のせいゲーム』というバカげた企画を打ち立てたんだ。
たしかに、抱きつかれると心地いい。思わず顔がデレる。
みんなかわいいし、僕みたいな冴えない男が抱きつかれるなんて名誉なこと。
6人もの美少女を引き連れるなんて、プライベートでは絶対にないんだから。
けどみんなは恋人でも何でもない、ただのビジネス上の知り合いに過ぎない。
隙をみせた僕のせいなんだけど、ねたみ・そねみ・ひがみの呼水になるがイヤ。
はじめはにこやかな顔をして漫然と僕らを見守っているかのような通行人。
みんなが僕に抱きつくと、きつい視線で僕を睨みつけてくる。もう、うんざり。
「おーっ。いいねぇ、さくら。連続ポイント。さすがは山手プロの眠り姫だ」
つばささんは相変わらず無責任。
「赤坂、バッチリ『充電』したから無敵なんでーす!」
って、威張って胸を張るんじゃない。背中に擦れるだろうが。
「よく思い切っていけるわ。私、どうしても躊躇ってしまう」
「そう言うのぞみだって11点でしょう。ウチなんか10点だよ」
「私はコメントを控えます。12点取ってはいますが、12点!」
と、高1トリオは三者三様の反応。
上野駅20番線ホームからやまびこ57号が出発するのを見届ける。
とき315号は19番線。あと2・3分で到着の予定だ。
「みんな、ジャージ交通流の上野観光withつばさはどうだった?」
「つばささん、もちろん大満足です!」
みずほ。僕に言ったのとは大違い。
さすがのみずほも、つばささんの先輩圧には勝てないのか。
他のみんなも概ね満足げに首を縦に振る。意外だったのはつばささん。
「私は不満だよ、みずほ。どう考えてもみずほはゲームを楽しんでいない!」
そういえば、みずほは0点だ。
「それは……観光が、素晴らしかったからですって……」
「……観光とゲームは表裏一体!
折角、盛り上げようと思って企画したのに、楽しんで頂けてない。
これは、アイドルとしては痛恨の極みなんだ」
金髪ツインテールは、元気も溌剌も失う。
「でででも、鉄矢が全く隙をみせな……」
「……そんなはず、ないでしょ! 私なんか14回も抱きついているんだから。
そもそも。鉄矢くんって、基本、隙だらけのだらしない男でしょう。
一生懸命やって0点はあり得ないよ……」
つばささんは、おでこに手を当てて悲しみを訴えるが、演技だと分かる。
みずほが何も言えずにいるのを横目で確認している。少し口角を上げたあと。
「そ・こ・で。大大大チャーンス・ターイム!
ゲームは新幹線車内も継続。しかもポイントは従来の5倍としよう。
さらに、優勝者には副賞として、鉄矢くんが願いを叶えてくれる権を贈呈!」
つばささんの気紛れがメンバーに動揺を誘うなか、
新幹線とき315号のE7系がゆっくりと上野駅19番線に滑り込む。
自由席はスキー客で大賑わい。とても座れない。
本当は、6人分の指定席券があるけど、今は使えない。
大宮まで急遽同行することになったつばささんの分がないんだ。
7人でいるにはちょっと狭いが、デッキにいるしかない。
メンバーはそれぞれにカメラを片手にレポート。
それぞれの言葉で上野観光の感想を述べている。概ね満足げ!
みんなが特別に僕の隙を狙っている様子はなさそう。
だからといって、油断は禁物。それこそ隙が生じてしまう。
ふと、考える。このまま何事もなく大宮駅に着くことがベストだろうか。
その場合のトップはつばささん。それって、まずくないか⁉︎
だって、つばささんが副賞でほしがるものなんて、しれてる。
どうせ、最後まで旅に同行するとか言い出すに決まってる。
男女1対5でも荷が重いのに、6人なんて大変過ぎる。
現在、2位はさくら。逆転してトップになったら……。
一生『充電』する権利とかだったりして。それはそれでアリ⁈
いやっ、ダメだ、ダメだ。絶対にダメ。正直、刺激が強過ぎる!
高1トリオだったら?
のぞみのことはよく分からないけど、ひかりはスケッチブックとかだろうか。
こだまは高級ホテルのディナー食べ放題とか。出費がかさみそう。
みずほが洗面台で歯を磨く目に付く。トップになることはないだろう。
つばささんの指摘の通り、ゲームに積極的じゃないから。
みずほが得意の洗面台レポートをはじめる。
E657系などと比較したり、歯の磨き心地を詳細にレポートしている。
上手になったものだ。感心、感心。
僕は声をかけようと、そっとみずほに近寄る。鏡越しに目が合う。
みずほは振り向いて、大声を出す。
「なっ、何よ。近寄らないでよ、このエロ鉄ーっ!」
と、新幹線が横にゆれる。みずほがバランスを崩し、倒れかける。
僕は咄嗟に、みずほを正面からガシッと支える。何とかバランスを取り戻す。
メンバーは大騒ぎ。
「これって!」
「もしやっ!」
「あー、まさかまさかの!」
「審議です! 今のは隙をついたのとは違いますよ!」
「いいや、成立とみなします。優勝は、みずほーっ!」
正面からの抱きつきは3ポイント、新幹線の車内では5倍。
つまり、みずほは一瞬にして15ポイントをゲットしたんだ。
みんなが上野観光を楽しんでくれたかどうかは分からないが、
新幹線とき315号は大宮駅に到着する。
___________________ここまでの経緯 3月16日その13
=(ジャージ交通流の上野観光)=1040上野
上野 1041==(新幹線とき315号)===
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます