第20話 占星術『大アルカナ』

サーマ村から少し離れただだっ広い平原で補助職に関して確認をするためフィニーと稽古をつけてもらうことにしたのですが。


「前より動きにキレが増してないか?」

「そう?」


彼の全長10m狼形態から高速で繰り出される殴打攻撃に合わせてただ避けてるだけなんですけど、ボクシングをしていたせいか最低限の動きで私は回避することを覚えた感じでしょうか。

身体が魔族ということもあって間に合わせで回避できる状態というのもありますかね。十分間息継ぎ無しで動いても息が切れないのはさすがというべきか…。

おっと左から来ますね。


「ふッ…」


彼の殴打を左手首に狙い定めて右手の掌底で軌道をずらしたあと右から来たひっかきを鉄山靠で止めようとした瞬間、急に宙に舞う感覚に…あ、これは吹き飛んでますね。

方向感覚が狂うほど回転して吹っ飛んでいき気が付いた時には平原の上で横たわっていました。おぉう…中身出ちゃいそう。


「げほ!…おぇ…」

「あ…すまん!」

「だ…だびじょぶ」


うん、ほんとじゃ大丈夫じゃないですけどね。


「ここまでホイホイ避けられると楽しくなってつい力込めてしまった…。」

「あ…あはは…、フィニーは結構組手好きですもんね。」


でも周囲から見たら組手に思えない速度でやってたので場所選んでしまいますが…。その後上半身を起こして自分の両手を見て再確認しました。


「ふぅー…やっぱりまだ魔素の蓄積量が小さいから簡単に吹っ飛んじゃいますね。」

「そりゃ体はまだ子供だからな。」


最もですね。

動体視力に関しては自信があるのですがやっぱり体の基礎ができてないのは辛いですね。


「だがここまで動けるなら大半の魔物は大丈夫だろう。あれでも我の全力の五割くらいの速度だからな。」

「あれでまだ五割なんだ。」


全力のひっかき使ったら衝撃は出そうだなー…。多分クラムとの力比べの時で7割くらい?そんな感じのことを考えていると少し小さくなったフィニーが心配そうにこちらを見ていた。


「怪我とかはないか?」

「うん、爪とかは出てなかったから大丈夫だよありがとう。…さて確認もできたことだし本命をやろうか。」


私は返事をして撫でたあと気になっていた本命に入ることにした。

先ほどは補助職である格闘家を確認するための組手であったため確認できただけで御の字でした。

ただしこれからやる本命はどうなるか…。


占星術『大アルカナ』

該当するタロットを選んでナンバーと名前を叫んだ後、使用は『準備セット』・召喚は『解放リリース』・装備は『付与チェイン』・解除は『消去ロスト』と詠唱すると効果が発動される。

シャッフルして確認をせずドローをした場合効力が増す。

追記、正位置と逆位置を宣言すると異なる能力を発動するが宣言しない場合は正位置である。


これらが私の得た情報である。


「正位置と逆位置を注意しないといけないのか…。」


実戦だと慌てそうなので定期的に試運転しようと思ったのですが…。

直後予想外のことが起こりました。


◇◇◇


「…フィニー。これどう思う?」

「いや、我に聞かないでくれ。」


目の前に20mのでかいクレーターが出来ていました。

…いや、かるーい気持ちでシャッフルしてドローしたんですよ。

ナンバー1引くじゃないですか。

宣言して装備するじゃないですか。

なぜか魔法少女に変身したので勢い余って魔法打つじゃないですか。


「初級火属性でこの威力なんて聞いてないよ〜…。しかもまだ使えるっぽいし…。」

「はっはっは、これだと大型を一撃で屠れるんじゃないか。」


えー笑いどころ?まぁ全盛期に比べればまだほど遠いけど…そういえば土魔法で更地にできるんでしょうか?

試しに地面をステッキで平らを想像しながらコンコンと叩いてみるとクレーターが嘘のように真っ平らになりました。


「よし、草木は生えてないけど証拠隠滅。」

「ほぅ…便利だな。」

「…でもシャッフル、ドローは緊急事態以外は封印ですね。『アリエ』がもし解放されたら一発で周囲が変化しそうですし…。」

「アリエ?そんなに強力なのか?」


そう、大アルカナでは切り札と言われる5つのカード『アリエ』(ラテン語で『天』を指す)が存在していました。

私が進化して効力が増していくのなら効力はきっと…


「最終的に効果範囲は大陸半分ですかね…。予想ですけど」

「ふむ…。天変地異を起こす感じか。」


多分とあるカード以外は国一つで済むと思うんですけど…、ラストナンバーが未知数なんですよね〜。

まぁそれは出てきた時おいおい考えましょうか。


消去ロスト


唱えると魔法少女の服は消えていつもの服に戻っていた。

それにしても神様が強力に作ったと言っていたのはこういうことだったんですね;


「なかなか不思議な仕組みだな。」


フィニーは興味深そうにタロットカードを見ながら喋りました。

数秒でしょうか、彼は少しずつ表情を変えて行きあることに気がついた表情をしました。


「すまん、少しケースに触れても良いだろうか?」

「え?いいけど…どうしたの?」


私はケースを差し出しそれに彼が触れた瞬間、何かを感じ取ったのかすぐにケースから手を遠ざけました。

一瞬の動座に私は不思議に思いましたが、汗を流す彼を見てただ事ではないと理解しました。


「…これはあまり他人が触れていい代物じゃないな。」


言葉を聞いた時私はふと神様の言葉を思い出しました。

『私以外には使えない』と。


「下手したら廃人になる代物だ。ケースだけで武器になるくらいには…いや呪いかな?」


少し冷や汗をかきながら彼は笑ってこう答えました。


『大アルカナ』人によってはそれがそのまま人生となる時があると。じゃあこのケースは私の…。


「…もしかしてケースに触れたらこの世界での私の経験を追体験してるってこと?」

「ん?あぁ…おそらくそんな感じだな。一秒で一日?たった感覚があったが…。」


あぁ…私はこの世界に初めてきた時すぐに色々無くしたから…。

辛い思い出を見せてしまったと思い私は彼を力強く抱きしめました。


「…ごめんね。辛いもの見せちゃって…。」

「いや、あれを見たら余計に帝国を滅ぼして良かったと思ってる。」


この時、私はなぜか心が暖かく感じた。


◇◇◇


『夢羊のやすらぎ』の宿に戻り、寝室でタロットケースを前に悩んでいました。


「うーん、余計にタロットケースの管理が大変に…」


きっと私から取ろうとした時にあの効力が発動するんですよね。

それは私が寝た時にも効力発揮すると思いますので、知り合いが触れて廃人まっしぐらなんてこともあり得るのが怖いんですよね。

過去とはいえ体に禁薬『ピポポケ』を致死量ぶち込まれてたわけですし…。


禁薬『ピポポケ』

現在は取引が禁止になっている禁止薬物

これを一滴でも飲んだものは全身が蚊に噛まれたように痒くなる症状を起こし、大量の発汗を引き起こす。コップ一杯飲んだ時には体の内側まで痒くなり血が出ても痛みも感じず掻きむしる事を止めないほどの苦痛を生む。

治療方法が性行為であり、性交渉の道具として使われていた。

要は拷問や調教道具である。


私は強制精神安定化の能力が開花したため死ぬことはなかったけれど…、当時のことは嫌でも幻肢痛として思い出します。

そして、私の人間恐怖症はここからきていたのですよね。


「…もっと綺麗な人生だったら良かったのになぁ。」


今でも口に出るほど愚痴としてそう思います。

そんな小さな過去の苦痛を思い出しながら私はフカフカベットで明日に備え寝るのでした。

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