第16話 神獣と聖獣と魔神と邪神?

私達は宿である夢羊のやすらぎを後にし、ギルドに向かい石板をおいて聖獣クラムに会いにいったのですが…。


「マルンさん無理してついてこなくていいよ?」

「あははー、ついて行くというより僕の長に報告しないといけないから里に戻らないとなって…。」


そう言われると私と神狼という不確定要素がこの場にいるのですから確かにそうですね。

そういえば調査団の方々はどのルートから南東に行くのでしょう。


「フィニー、今調査団の方々はどこにいますか?」

「匂いからしてもう現場辺りではないかな。」


あら、ずいぶんとお早い。

確かに神狼から許可とれたとなれば早いに越したことはないですね。


私達(特に神狼)がこの場に来てからというもの危険な魔物が身を隠したらしく、ここ三日間魔物に村が襲われていないのです。

それを見越して許可とれたんですぐ行動に移したのでしょう。


「それじゃ、僕はここから東に行くからお別れだね。」

「はい、また会いましょう。」

「またな。」


マルンと聖樹から少し離れたあたりで別れたあと、狙っていたかのように聖獣クラムが姿を現しました。

そして、様子から見てさっきまで鍛錬してたのか息が荒くなっている印象でした。


「周囲に気を使うとは出来た熊だな。」

「ガウ。」


おっと?周囲の空気が変わったような気がします。


「ふむ、我を囲えるほどの結界か。わっはっは、さすがナツメの杖の力を使った聖樹から生まれただけあるな。」

「結界…。」


あーなるほどそうですか。

要するに鍛錬の時間が惜しいから別の空間に作ったと…。


「えーっと…。メルウから聞いてますよね?クラム」


すごく頷いてますね。

それでもやってみたいと…。


「フィニー、念のためですけど全力はダメですよ。たぶんクラムは聖樹の力を借りてるんで。」

「あい、分かった。」


フィニーは煙を吹き出しながら獣人から元の姿である神狼になった瞬間。


「ガアァァァ!」「来い!坊主!」


4メートルと5メートルによる聖獣と神獣の戦闘が始まりました。


初手組付きから始まり、爆音と共に大地が割れるほどのひっかきの応酬のあと動いたのは聖獣クラムの方でした。

忍術『空虚』でその場にいなかったことにして上空に移動し忍術『鉄塊落とし』(自身が鉄塊になり、込めた力具合で重さが変化する)につなげたのですが、フィニーはそれを見越してか天雷術『羽衣の纏』で空間を軽くすると、すぐさまフィニーの右殴打が炸裂し轟音とともに吹っ飛びます。


「わっはっは!筋はいいが相手を見極めろクラム。」

「ガウ!」


クラムは答えるように爪と爪を交差させ、忍術の最高位の奥義、忍術『天動地』を使用しました。

この術、私は見てないからわからないのですよね。

しかしフィニーはすぐに何か感じ取ったようにつぶやきました。


「ふむ、強いな。」


忍術が発動したかと思うと大地が揺れ亀裂ができ上がりました。

そして石や土が大小さまざまな立体四角形のブロックに掘り起こされ空中に止まり、クラムが腕を動かすとそのブロックがあらゆる方向に操作できる術でした。


「聖獣の中でも規格外ですね。」


そんな感想を言っている私はというと出来上がった大小様々なブロックの中の一つに座って見学しました。

それにしても結構精密操作要求しそうですねこの術。

二匹の獣の攻防は最終局面を迎え、高速で戦闘しているせいか互いに体のぶつかり合いだけで衝撃波が飛んでくるほどになりました。


その後、数十分間に渡り結界が壊れることもなく天動地の中でブロックを破壊しながら戦っていた二名は疲労はあるものの深い傷を負うことなく戦闘を終えました。

あの様子から見るとクラムは相当頑丈みたいですね。


「いやー、久々に骨のあるやつで楽しかった。お前なら娘を任せられそうだな。」

「ガウ。」


少しクラムも照れてますね。

そんな様子を見ていたら私は気配を感じたので後ろを向くとなんかすごく汗や涙、そして鼻水をたらしながら怯えた表情をする鎧を着た人が足をすごくガクガク震わせて立っていました。


「ひ…ひぃ~…。」


この様子は多分見られてましたね。


◇◇◇


目の前の兵士を見て一瞬来たばかりの私を思い出しましたが、首を横に振り再び兵士の方を見ました。

身長は150cmくらいで外見は黒髪で瞳は深い黒色。鎧は…どこかで見た形状で銀色の風格ある西洋甲冑で兜は転がっていました。


「えーと…あなたは?」

「ひぃ!」


あら、優しく問いかけたのですがなぜこんなに怯えているのでしょう。

身長110の少女ですよ〜怖くないですよ~。


「ん?そこに誰かいるのか?」

「フィニー、この子の匂いは引っ掛からなかったのですか?」


聖獣クラムとフィニーが歩いてきたので問いかけると彼の視線は兵士の方に向けられました。

そして目を見開いたあと不敵に笑みを浮かべました。


「ふふ、ナツメよ。そのものは誰だと思う?」

「え?この青年ですか?」


自然そのもので真逆な感じがするのですよね。

まるでそう邪神のような…。


「え!この子邪神!?」

「あぁ、そうだ。」

「ひぇー殺さないで!」

「あーごめんごめん。びっくりしただけ。」


この感じまるで私そのものを恐れてる感じがしますね。

ふむ、試しに両手を挙げてみましょう。


「ひぃ!」


…なんか悲しくなってきました。


そんな風に思っているとふと声が聞こえてきました。


『これこれー、愛弟子をいじめるでないぞー。』

「ん?この声は。」


何かフィニーが渋い顔してる…。

どうやら兵士のぶら下げている本の中から聞こえてきますね。


『クンクンクン、懐かしい匂いがするの。』


そんな台詞を言いながら一人の少女が姿を現しました。

そして、私はその姿何とも言えない表情を浮かべました。


『おお、犬っころか!何年振りかのう。』

「…。」

『それにー…ん?羊人からかこの匂いは…』


特徴的な黒色の帽子には目のように二つの赤いボタンが付きギザギザの模様が描かれており、髪は金髪で目は深紅のように赤く、服は黒と赤をメインとしたドレスを身にまとっていました。


「『暴食の■■■■』あなたはそう言われていましたよね…。」

『はて、なぜお主が我の真名を知っておる。それにそれを喋れるのは一人しか…。まさか!』


次の瞬間その少女は満面の笑みで私に飛び込んできて抱き着きました。

私はそれに応えるように抱きしめ返しました。


『あぁー…、この優しい匂いで確信した。最愛の弟子よ。おかえり。』

「あはは、あなたは魔神なんですから泣かないでください。」

『泣かない師がどこにおるか!お主のおかげで我は自由に旅できるのだ。』

「えっと…師匠?」

『あぁ、すまん。ニービスよ取り乱した。』


そう言うと離れたあと少女は空中に寝そべりぷかぷか浮きながら話し始めました。


『我のことは覚えておろう。いまはマーゼと呼ぶとよい。それでこっちが。』


マーゼが指を青年に指差すとおどおどしながら答えてくれました。


「え…えっと…ニービスです。僕はその…邪神みたい…です。」

『ありゃりゃ、すまんのう。こやつがこんなにおどおどするのは珍しい…。』


これは多分私のせいなんでしょうね。


「気にしないでください。多分私のせいなので…」

『お主の?あぁ!なるほど魂の問題か、ニービスよ。お主が怖がるのもわかるがお主が思うほど怖いやつではないぞ?』

「は…はい。」


この感じはおそらく殴り合った時の恐怖が魂に刻まれてるのでしょうね。

でも、本気出さないと死んでたんで仕方ないのですけどね。


『だがこやつはキレたら怖いがの。』

「一言多いですよ。師匠。」

「…否定はしないな。」

「フィニーまでー?」

『だが滅多にナツメが怒ることはないから安心すると良い。というより怒ったらおそらく前回よりもやばいかもな。』

「前回よりも?」


そう聞き返すとフィニーは空に顔を上げて呟きました。


「神の愛し子が、清き心で悪意あるものに大激怒したら神罰を与えれる許可が下りるからな。ナツメとあいつは元々他者のために怒れるほど清く温厚だっただろ?」

「…うわぉ。」


神の愛し子って改めてやばいんだなとこの時私は再確認するのでした。

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