幕間 英雄ナツと神狼の恋物語 前編

昔々とある国で二人の少女が召喚されました。

召喚された一人は誰にでも優しいナツ、一人は誰にでも元気を与えてくれるミナという少女でした。

二人は勇者として召喚されたのですが、その国の王様はという些細な理由だけで瘴気にまみれた危険な森へ投げ捨てたのです。


少女達は死にものぐるいで森を駆け回り、生き延びようとしました。

そんな日々を送る中一人のエルフの青年と相棒である白き狼が偶然その少女達を見つけました。


「なんだこの化物達は…。」

「違う、これは人の匂いだ。人間だ。」


ここは瘴気にまみれた危険な森、普通の人間が入れば正気を失う森のはずでした。そして青年には目の前にいるものが人間とは思えなかったのです。


体は泥だらけでたくさんの切り傷があるかと思えば服は返り血で真っ赤に染まり、仕留めた魔物の肉を火も通さず貪り食うその姿は異常としか見えませんでした。


「あれだけ禁止された魔物の肉を食い散らかして人間だと?それになんだあの魔素は…ほっておいたらここらが吹き飛ぶぞ!それに黒髪だ。不吉な予感がする…。」


青年がナイフを取り出して殺そうとしますが、二人の少女は身を寄せ合って互いを守ろうとしました。

その間に入ったのが白き狼でした。


「なぜ止める!」

「いや止める!事情を聞かずに殺そうとするのはおかしいのではないか兄弟!」


長い沈黙の後、一人の少女は二人の様子を見て立ち上がり頭を下げました。


「私の命は…どうなっても良いです。ですが、ミナの…幼馴染の…命だけは助けてください。」

「ナツ!いやだよ!ナツが死ぬんだったら私も死ぬ!」


青年と狼は驚きました。

なぜ小さき少女が互いのために自らの命を差し出すのか意味がわからなかったからです。この時青年と狼は考えました。

親友であってもお互いの命が危険な時に自らの命を差し出せるのかと…。


「…すまん。化物は言い過ぎた。」


これが彼ら英雄達の初めて出会いでした。


初めてあった時とは違い体も服も綺麗になった二人の少女はその後、エルフの青年と狼と一緒にたくさんの街に山、川、そして荒野を旅しました。

旅をしている中、少女のナツは稼いだお金を孤児院に渡し続けていました。


「なぜお前は他人のためにそこまでできるのだ。」

「…なんでかな。」


狼は少女ナツの行動に疑問をぶつけましたが、彼女自身にもなぜそうしたいのかわかりませんでした。

しかしナツはこの時初めて異世界から来たことを明かしたのです。


「私とナツの世界わね。少し前に戦争が終わって平和になったの。」

「戦争?他種族でのいがみ合いでもあったのか?」

「ううん、私達の世界には種族の明確な違いなんてないんだ。動物はいるけど全て同じ人間なの。戦争してたのは肌の色や髪の色が違うくらいでみんな寿命がほとんど同じでみんな同じ人間なんだ。」


狼は驚きました。

この世界では同じ種族同士で戦争するということはほとんどなかったからでした。なので狼には同種族で戦争する意味がわからなかったのです。


「ありえない!なぜそんなことになるのだ!」


少女は遠くを見た後理由を語り始めました。


「狼さん、私達はね。この世界を冒険してみて羨ましいと思ったんだ。この世界では色々な魔法が使えるでしょ?私たちの世界には魔法自体がないの。」

「魔法が…ない?」

「うん、だから私たちの世界の資源は有限なんだ。食料を計画なしに食べれば次作物を植えて育てるのに何ヶ月も待たないといけないし、お肉は少ないけどお腹いっぱい食べれるってすごいことだと思うの。もし食べる物が近くにないとわかったらあなたはどうするの?」

「それは…考えたこともなかった。」


確かに魔法を使えば三日で作物は取れ空腹で困る人々は少なかったのです。

そして戦争理由も他族に力を示すという理由だけで頻繁に行なっている国が多かったのでした。


「だからね。狼さん私…この世界でやりたいことができたんだ。」

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