第29話 忍者な聖獣クラムと神狼 その1
「それで私が来たと分かったのですね。」
「はい~…。」
フィニーが落ち着かない様子だったので宿屋のなかに案内してもらい、客席に集まり続きの会話をしていました。
私が光の柱から降りてきたとき、聖獣クラムはいち早く気が付きメルウに念話で教えていたこと。
そして、クラムは元々呪われた大樹が杖で癒されてから、大樹の木の実から生まれた聖獣ということも語ってくれました。
つまり聖獣クラムも私の息子に近い存在だったんですね。
だから歩く時やたら近かったのですね。
「あと、本人曰く職業は忍者らしいです。」
忍者!だからあの時、聖霊の背後とれたわけですか。…あの巨体で忍者?
「すごいでしょ。メルウの作り話。」
「本当だよ?マルン。」
本当なんですよねー。
半信半疑になるのは分かりますけど…。
「だってさぁ。確かにメルウは100歳超えてるからナツメさんが本当に英雄ナツ様で育て親なのかもしれないし、クラムのことはもちろん知ってるよ?でもさらにあの理不尽の権化である神獣も育て親なんて都合よすぎない?」
言いたいことはわかるのですよ。わかるのです。
「それにそこにいるのは狼の獣人さんだし、まさか神狼がその人だなんてあるわけないでしょ?」
「マルンさんマルンさん、ごめんなさい。その人……神狼です。」
「…え?まじ?」
フィニーがマルンさんの発言で少し落ち込んでしまいましたが、私は理不尽の権化でも気にしてないですからね。
「すまん。理不尽の権化で…」
「あ…、あはは~。ごめんなさい!」
わぁー綺麗な土下座。
マルンは落ち着いたのか席に座りなおしたあと次のように述べました。
「えー…じゃあ、大陸全土にある『英雄ナツと神狼の恋物語』の御伽噺本ってマジだったの?」
ギルドマスターが言ってたやつですね。
へー全国ですか。
…美菜がみたら絶対笑いますよね。
◇◇◇
その頃コココ街にて。
「ふぇっくしょん!」
「どうした、ルルー風邪か?」
「いえ、大丈夫です!ドルさん。多分友人が噂話してますね。」
「はっはっは、そうかそうか。くしゃみで怪我すんなよ。」
この感じ夏は心配なさそうかな。さて本屋に参考になるものがあるか見に行ってみよう。
それにしても子供達が持ってた狼と少女が表紙に描かれた本、あれなんだったのかな。それも探してみようかな。
◇◇◇
夢羊のやすらぎ店内にて。
「くしゅん」
「おかあさん大丈夫?」
「うん、大丈夫。多分美菜の方が私の考えてるだけだと思う。」
「ミナお姉ちゃんが?」
あぁ、この感じ嫌な予感がしますので私も中身確認してみましょうか。
「マルンさん、その本ってここらでも売ってますか?」
「うん有名だからね。確か…魔王様が監修してたんじゃなかったっけ。」
うわー…。マジのやつじゃないですか;
「私も手伝ったんですよ?別れの時の細かいところわからないからって言われまして。確か…そう50年くらい前に。」
「それ聞いてないよ。僕。」
メルウーー!お母さん顔から火が吹き出そうなんですけど!
あぁ、そうなると多分ほぼ実話じゃないですか。見るの怖くなってきました。
「ふむ…、儂が当時どのようなこと言ってたか気になるな。」
フィニーは変なところ気にしますね。
でも私も感極まってどんなこと言ったか覚えてないのですよね。
「あ、気になるなら私のを見ます?おかあさん。」
「え?いいのメルウ。」
「うん、私も真実を知って何度も泣いて読み直しちゃったから少し汚れてるけど。」
その日、『夢羊のやすらぎ』にて夕食をとり就寝の支度をしたあと、私とフィニーはメルウから渡された本を読み夜遅くまで昔を語り合うのでした。
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