第10話 石版も全力を出したいのです

石版はゴンと音を立てながら尻餅ついた私の方に優しく倒れてきたので、応えるように私は石版を受け止めました。


「だ…大丈夫かの?」

「…あはははは。まるで本当に生きてるみたい。」


私に会えたのが本当に嬉しかったのでしょうか。初手転ばされたあたりかなり拗ねてますね。

おっとおじいさんが心配してますね。


「もう大丈夫です。このあいぼ…いえ、石版の感覚を覚えましたので…。」


そう言って立ち上がると、私は石版を平らに置ける机があるか見渡しました。


「おじいさん、すいません。図々しいですができるだけ水平における大きめの机はありますか?あと布もお願いします。」

「あ、あぁ。こっちになら。」


私たちはおじいさんの後ろを歩くようについていくと、大きな作業台のようなものが見えてきました。そこには綺麗な布がたくさんあり、壁にもヤスリも様々な種類と同型の数が飾ってあっりました。

そして内装の整い方からして常に綺麗にしているのでしょう。

そう思っているとふとおじいさんが喋り出しました。


「驚いた…。そうやって持ってると普通は何度も転ぶのじゃがな。」

「じゃじゃ馬には変わらないですよ。そう…じゃじゃ馬にはね。」


私はそのように返事をすると作業台の上に石版を置きました。

地面でもよかったんですけど、この石版は余程のことじゃない限り地面で占術することを嫌うんですよね…。


「さて、おじいさんに初めて名乗りますが、私の名前はナツメで職業は占術士です。」

「そして、儂はフィニーだな。」

「な…なるほど。しかしその占術士のお嬢さんはなせその石版を欲しがるのじゃ。」


そう占術士には基本石版がいらないのですよね。

正確にはタロットがメインなのですが。私が使うのはレーダーチャート占い、くもの巣グラフとも呼ばれていますね。

そういう他者から見てもわかりやすいのが好きだったので特注で作ってもらったんですよね。要は正角形という形が重要だったわけですがこの世界の人たちにはこの形は馴染みないかもしれないです。


「それにこれを扱えるのは私と親友しか扱えないでしょうしね…。」

「?」


おっと、石版を拭きながら呟いてしまったのか、おじいさんが首を傾げてますね。


「これからこの石版の扱い方を実演するので見ててくださいね。」

「わ…わかった。」


私は体内の魔素を高めるため深呼吸をしました。


「…占術『占い師の箱庭』」


石版の中心にある窪みに人差し指を添えながら魔力を込めて占術を唱えました。すると石版の周囲から膨大な光の球体が集まり始め、光は小さな粒子となり半透明の家を形成していきます。

その後、家が完成したと思ったら10cmくらいの三角棒を被った小人達が九人ほど出てきました。ちなみに触れようとすり抜けます。

それにしても…よっぽど正しい使われ方して嬉しかったのか家が豪邸になってますね。前はもっと小さかった気もしますが。

おじいさん驚きすぎて固まっちゃいましたね。


「こんな感じでこれが石版の正しい使い方ですね。」

「…こ…これは神の御技なのか?」

「え、違います。」


あぁ、これは現実逃避したいような表情ですね。

ふむ…小人達は遊び始めちゃいましたし、せっかくなんで補助職業について占ってみましょうか。


「私にオススメの補助職業はなんですかー。」


私が小さい声で呟くと小人達はピクリと反応したのか。九人それぞれ定位置にたどり着いたあと看板を取り出しました。その看板には職業がそれぞれ書かれており、中心の小人から離れるほど適性が高いのですが…。

高め判定で格闘家、薬士、錬金術士、農家、魔物使い、呪術士でした。

他は0の近いのですが、なぜ転生してもトップ適性が格闘家なのですか…拳から逃げちゃダメなんですね。


「…これが神の御技か。」


だから違いますって。


◇◇◇


おじいさんはあのあと石版を譲ってもらう時いいものを見せてもらってお金は受け取れないと言っていましたが、小人達が看板で『今までありがとう。だから受け取ってほしい。』と本心を伝えてくれたのでちゃんと3金を渡すことができました。

しかしまぁ、その後が大変でおじいさんぼろぼろ泣いちゃって手を離してくれなくて大変でした。


「大変だったけど…、100年前との違いを改めて実感できて楽しかったです。」

「そう思っているならよかった…。そういえば宿でも探すのか?」


それも考えたのですが。


「せっかくなんで昔みたいにフィリーと一緒に野宿したいな。」

「…いいのか?」


…しっぽ振ってますね。


「うん、久しぶりにフィリーと一緒に眠りたいと思って…。だめかな?」

「ぐふぅ…!」


四つん這いになっちゃいました。

えっと…フィリー大丈夫ですかね?あ、四つん這いから起きました。


「ナツメ…儂を悩殺しようとしないでくれ!」

「え?」

「いや、なんでもない。」


えーっと…別に悩殺しようとしてないです。

甘えてるだけなんですけど、…そういえば前回もこんなことがありましたね。

確かあの時美菜から変なこと言われましたっけ?

『夏はさ普段計算高いけど、相手のピンポイントを躊躇なく踏み抜いて悩殺するのは控えたほうがいいよ。そこはものすごい天然で鈍感なんだから。』だったかな。


「う…うーん。歳とっても天然の部分は治らないんですね。」

「…まぁ、儂はナツメのそういう部分も好きだがな。」

「そういえばフィニー。」


私は歩みを止めてフィニーを呼び止めた。


「私のこと聞かないの?」


私はちょっと怖かったのです。

前の世界でのことを話すと嫌われるのじゃないかと、おばあちゃんなんだと伝えると離れるんじゃないと、結婚したことを話すと突き放されるんじゃないかと、そして子供がいたことを話すと失望するんじゃないかと。

そんな悩みを語るとストレートに返事が帰って来ました。


「…前世は前世だ。今こうして儂のところいるのだ100年たってもほとんど変わらないお前がだ。」

「フィニー…」

「ただまぁ、君の前世の子供や夫のことを聞かせてくれ。儂は嫉妬もするがお前の全てを知りたいくらい欲深いからな。」


…わぁ私絶対顔真っ赤だ。

フィニーがイケメン過ぎて私が辛いです。

何ですか、私もフィニーの全て知りたいですよ!でも、悩み全部吹き飛んじゃったじゃないですか!


「ふむ、ということは次母親になってもきっと良い母親になるのだろうな。」

「ぴぃん…」


やめて、私をニコニコしながら見ないで!

はぁー、熱いです。

冷蔵庫があったら頭をダイブさせたいです!

くそぅ、こうなったらカウンター食らわせてやります。


「そ…その、何年たってもあなたに会いたいなって…思ってました…。」

「…すまん考える時間をくれないか。」

「え?」


あ、これはまずいやつですね。


「…決めた。儂と一緒に幸せになろうか。

「ふ…ふぁい…」


お姫様抱っこしないで、なんか私の脳内で変な映像が勝手に流れ始めてる気がします!

ちょっと待って。ちょっと待ってください。

エンドロールさーん、エンドロールさーんまだ流れないでくださいね!

物語はまだまだ続きますからねー!


◇◇◇


あのあと二人で野宿をすることにし、焚き火をしながら私達はたくさん昔話をしてました。


「あはは、確かに夏の孫なら達成するな。」

「否定できないのが辛いです…。」


孫がボクシングのチャンピオンになったといわれた時は血を否定したかった気がしました。


「それにしても幸せそうな終わりで安心した。」

「そうかな…、そうかもしれないですね。」


でも、片隅にはフィニーがいたんですよ。だから今はそれも叶ってもっと幸せなんだなと思いました。


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