第7話 抗えない感情とデリカシーどこ行った。

さて、どうしたものか…。

さっきから私の周囲をスンスンしてきているのですが。

おしっこ臭くないのでしょうか…。


「あの、臭くないですか?」

「全然。むしろ落ち着く匂いだ。」


あぁ、狼ですもんね。犬ですもんね。


「ふむ、変な感じだな。生まれたばかりのようで、それと同時に懐かしい匂いを感じる。」


あら、意外にも直接的にはバレてないですね。

それにしても懐かしい再開でおもらしして…、匂いかがれるってなんていうか…。

少し気持ちがいい気がしてきました。


「じゃない!」

「うぉ、びっくりした。大声出さないでくれ。」

「あぁ、ごめんなさい。その…あまりに情けない自分に活を入れたくて…。」

「おもらしか?我に遭遇する者はたまにそうなるから気にするな。」


それもそうですね。忘れることにしましょう。

それにしても落ち着いてわかるのですが…前回会った時からずいぶん大きくなったように感じます。

私を基準にして…前回二メートルで、今は五メートルくらいでしょうかね。

綺麗な銀毛に覆われて凛々しくなって…


「立派になったんですね。フィニー。」

「…フィニー…待て、その名は!」


風に流されてしまいそうな私は呟いていた。

あぁ、会えないことに慣れてるものだと思ってたけど私の中で50年という年月は長かったんですね。

大声で泣きだしたい。会えた喜びを分かち合いたいのです。

私は50年、そしてあなたは100年の年月を…。


「やく…そく、しましたからね…。また会いましょうって。」

「夏…その名前を知ってるということは夏なのか。」


私は頷きました。


「あの魔獣たちを殴って吹っ飛ばし、大地をえぐっていた夏なのか?」


…ん?


「そして、あの怯えることをしなかったのに、今おもらしした君があの夏なのか!」

「台無しだよもーーーー!!」


デリカシーのない念入りの確認に思わず泣きながら叫んでしまいました。


「あっはっは、すまんすまん。」

「神狼になってもデリカシーないですよね。ほんと!」

「すまんって…しかし、可愛くなったな。」


そう言いながら私の頬を舐めてくれました。

しかし…デリカシーないくせに私の喜ぶ言葉すぐ出してくるんですよね。この狼。


「もう、何のために魔族にしたと…。」

「どういうことだ?」

「あ…、こっちの話。いつか話すから今は内緒でお願いします。」


耳が良いというのは考えものですね。

小声でも聞かれちゃいますし、ましてや神狼…心も簡単に読まれるのでしょう。


考えながら私は視線を落とすと黄ばんだ布が目に映りました。

これは洗わないといけません。


「えっと…神狼様…ここらに綺麗な水辺ありませんでしたか?」

「あぁ、近くにあるぞ。あと今まで通り名前で呼んでくれないか?」

「…わかりました。フィニーさん。」


その後歩きながらこの世界にどうやって戻ってきたのか、向こうの暮らしや何があったか色々話しました。

そして、神の愛し子として降臨したことも…。


「神の愛し子か…。まずいな。」

「あ、やっぱりまずいです?言いふらさない事や力を見せびらかさないようには注意を受けてはいるんですが…。」


フィニーの返答は想定内だったのですが、次の言葉は想定外でした。


「それもあるのだが結婚に関して問題がな…。神の愛し子と結婚する場合は聖獣以上の力、例外だとはっきりとした名声が必要となるんだ。何せ式の時は直に降りてくるからな。」

「はぇ…。」


ついまぬけ声で返事してしまいました。

えっと神様?それ聞いてないですぅ。


「えっと…条件満たさなければ?」

「善悪次第だな。悪寄りなら神罰をもろに食らうから常人は耐えきれんだろうて…。」


逃げ道塞がれた!

いや…逃げないし逃げたくないけどどうなんでしょう。


ひとまずのんびり考えようと思うことにしました。

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