プロローグ 白い世界で罠を探す

「…そっか私は死んだのですね。」


そんな一言を呟きながら私は周囲を見回しました。

遠い昔に経験したことあるような真っ白でどこまでも続く水平線の世界。


死ぬ前の記憶はしっかり残っていました。

私の名前は夏、60歳で癌になり闘病生活を送り、そして最後は家族に手紙を書いて現世にさよならしたと…しかしとても頑張ったいい人生だったなと思ったりしています。


「うーん、しかし何もないというのはどうしてこう…つまらないのでしょう。」


私は暇なので周囲の地面をペチペチと叩きながら何もないとわかっていながら『もしかしたら罠が仕掛けられているのでは?』と確認をしていると、背後から聞き慣れた声が聞こえてきました。


「なっちゃん何してるの?」


後ろを振り向くと見知らぬ少女が立っていました。


「…どちら様です?」

「え〜…なっちゃん天然だけじゃなくボケちゃった?」


はて、ボケてはいないと思いますが。

でもゆっくりみてると何処かで見たことあるようなー…無いようなー…。


「ほら、美菜だよ。幼馴染の美菜。」

「あ〜みっちゃん。あれ?でももっと年寄りだったよね。あれ?」

「たぶん死んだから若返ったんじゃないかな?」


若返った!若返ったのですか〜。

そういえば私もなんだか肌がしわしわから艶々のような気がします。


「まるであれですね。乾涸びたカエルが雨水で生き返った気分。」

「相変わらず独特な感性だよね。」


そんな何気ないやりとりをし(自分はそう思ってる)、なぜ美菜がこの場にいるのか気になったので聞いてみることにしました。


「どのように死んだんですか?」

「いや…間違ってないけど…その…そこはオブラートになんでこの場所にいるか聞いてくれないかな。」

「むー、では…なぜこの真っ白な世界に天使が舞い降りたのでしょう。」

「わぁ懐かしい…ってそれつっこまないといけない?話進まないんだけど。」


と言われたのでひとまずボケるのはやめて真剣に聞いてみることにしたのですが、美菜がここにきた理由を聞いて納得できる返答が返ってきました。

美菜はずっと現役で農業に携わっていて過労によって体調崩したのだとかで、彼女は年老いても元気一杯に動き回っていましたから私は休んだほうがいいんじゃないと言ったのです。

当の本人は満足しているのですけどやっぱり言いたいのですよ。

ちなみに亡くなった日は私の命日から一年後だとか。


「もう、だから休んだほうがいいんじゃないと言ったじゃないですか。」

「いやーははは…。死ぬとは思わなくって…」


美菜が両手の人差し指をくっつけながら落ち込んでいるのを見て、懐かしい気持ちになっていると上の方から声が聞こえてきました。


『まあ、お二人ともお久しぶりですね。』

「あら、その声はあの時の神様ですね。お久しぶりです。」

「お久しぶりです。」

『その懐かしい声聞くと嬉しく思いますね。本当に五十年前はありがとうございました。』


五十年前、私たちはこの神様に出会って異世界を冒険していました。

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