第十九幕 行きずり女の話

 ああ、柳楽祀? 知ってるわよ、ここらじゃ有名だもの。一晩の平均射精は七から十発の絶倫、このバーで働いていたこともあったとか? 色んな人から愛されるプレイボーイね。

 私は、あの人ちょっと苦手。苦手というか、深入りはしたくないなと思うかな……え? どうしてか? まぁ、いいわよ。話してあげる。


 三回くらいかな……寝たことがあるのは。え? 「深入りしたくないんじゃなかったのか」? それはそうよ、だから遊ぶだけ。

 あの人本当に勃ちはいいのよ……そこだけは、ここらの男のトップよ。抜かずの三発済ませて、息も絶え絶えな私に「ごめんねぇ、次の予定あるから」と言って、颯爽と去っていったこともあるのよ? 「宿泊の分は出しとくから、ゆっくりしてて」なんて、お金まで置いてね。

 ……だから、そういうこと。最初に寝た時はそりゃあ、恋に落ちたわよ。体の相性最高で、気遣いまで完璧だったんだから。

 だから二回目に会った時、勇気を出して告白してみたの。でも返事はつれなかった。

「ぼくはワンナイトしかしない性質なんだ。君がいいなら、そういうことするお友達にはなれるけど」

 ってさ。要はセフレよね。その話はたしかにめちゃくちゃ魅力的だったけど、絶対追い縋っちゃうと思ってやめたわ。友達にも止められたし……。結果としては、それで良かったと思ってる。

 あー、もう全部喋っちゃったから言うけど……結局は、深入りしたかったけどできなかったって話かな。そういうことができる人じゃないの。


 このバーで、あの人を目で追ってる内に、気づいたことがあるの。一つ目は、あの人の愛はとんでもなく浅くて、広いものだって事。

 まぁ当然と言えば当然よね。一時の楽しみのためにはじっくり時間を使ってくれるけど、裏返せばその時間しか相手のために使ってはくれないのよ。普通の友達として交友を深めるのにすら向いてない感じがする。

 そのくせめちゃくちゃお人好しで、その瞬間は溢れんばかりに流し込む。初見で惚れるなって方が無理な話よ……。


 二つ目は、絶対に深入りさせてくれないの。ぱっと見仲良しのセフレであってもよ。

 皆を平等に扱うのって、普通の人間には難しいと思わない? 絶対に好みや愛着はあるものじゃない。それを全然感じさせないというか……。仲良くなったと思ったのにヒラリと身をかわされるような感じがする。誰に対してもそうだから、逆に安心ではあるんだけどね。割り切って遊ぶつもりなら。


 これだけ聞いたってことは、あの人の予約とれたの? ……そう。

 まぁ、遊ぶだけだったら本当にいい人だから、楽しんでらっしゃいな。アレのもちは本当に、言うことなしだから。今日聞いたことは内緒にしてね?

 じゃあ、いい夜を。

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